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月へ唄う運命の唄
熱砂に溶ける氷壁3

あいつが、クノンに惚れている?どういう事だ?
疑問に思いながらも、しかしどこかそれに納得するような自分もいる。…そうか。だからあいつは僕らとの共同任務にやたら積極的であり、訓練といって屋敷に足を運んでいたりしていたのか、と。

「ある時期を境に、兵士としてめざましい程の進歩を遂げ、またリオンやクノン達との共同任務では素晴らしい戦果を。今では立派な上級兵となっている…そのきっかけは、あの娘との出会いにあると聞き及んでいるが」

「仰る通りでございます。…私は、当時兵として行き詰まっており、不貞腐れていました。しかし、あの幼さで素晴らしい力を発揮していたクノン様やリオン様を見て、このままではいられない、と奮起させられました。その時は、まだ"こんな子供達に負けていられない"って気持ちだったのですが」

「ライバル心を刺激された、というところかね?」

「えぇ。ですが、ある任務でご一緒した時に、初めて女性らしい装いをされたクノン様を見て………その」

「一目惚れした、というところか」

「お恥ずかしながら。それまでは女顔の少年、と見ていたのですが違和感は拭えませんでした。ですがあのお姿を見た瞬間に納得すると同時、胸を射抜かれてしまったのです」

なにやら長々と熱く語っているようだが、こいつののろけ話が何故か異様に不快に感じる。乱暴に言ってしまえば、胸くそが悪くて吐き気がするといったところだ。
ふざけるな、そんな不純な動機で僕らの任務に同行していたのか、クノンに近付いていたのかと罵ってやりたい衝動に駆られる。…が、場所が場所だけにそうするわけにもいかない。

「ふむ、いやなんとも。さて、では一つ、提案があるのだが」

どくん、さらに一際大きく、心臓が脈打つ。

「お主とクノンの仲…この私が取り持とうではないか」

びしり、硝子に亀裂が入るような音が耳の奥で聞こえた。

「は、それは、……いやしかし、宜しいのでしょうか。私はまだ、あの方に想いを告げてすらいませんが」

ちらちらとこちらを見る回数が増える。その忌々しい目でこっちを見るんじゃない。
もはやこの空気に僕は耐えられそうになかった。

「構わんよ。だが無論条件があるのだが」

「お話の途中、失礼致します。どうやらこのお話、僕には無関係の様子。未だ任務の途中・急いで下手人を追わねばならぬ身のため、これにて失礼させていただきます」

主の返事を待たぬままに一礼すると、踵を返し足早に書斎から飛び出した。そうして驚いたような目で僕を見る使用人達を無視しては屋敷を出、そのまま港へと向かったのだった。

あいつはいつか、僕の手で叩き斬ると心に決めた。
クノンが誰かを愛する日が来るだなんて、僕には想像した事すらなかった。
そしてそれはきっと、いや確実に僕を家族と…兄と呼ぶ彼女が僕の傍から離れていく事を意味している。
僕にはそれがどういうわけかたまらなく苦痛で仕方がないのだ。

「依存、しているのかも知れないな」

『依存、ですか?』

何に、だなんて言うまでもない。マリアンさえ居ればいい。そう思って生きていた僕には、いつしか大切なものがもう一つ増えてしまっていた。そしてそれが奪われるという事に恐怖すら覚えた。奪おうとする者がどうしようもなく許せなかった。
・・・・・
"そういう目"で彼女を見る者から遠ざけて、守ってやりたい。その想いが、あの時から強く膨れ上がってきている。
ゼド、お前にクノンは渡さない。いや、誰にも渡したくない。…我ながら酷い独占欲だと自嘲の笑みが口元に浮かぶ。
ふつふつと沸き上がる気持ちを落ち着けるように紅茶を一口啜るが、自分で淹れたせいかあまり美味くはなかった。

そして二つ目。
カルバレイスに到着し、やっとの思いで見つけたバルック基金での会話だ。
同年代の友人だの、仲間だの、虫酸が走る。僕には必要のないものだというのに、その言葉を口にする連中は何故ああも嬉しそうに語るのか。どちらも信頼には値しないものだし、そもそもこれは神の眼を取り戻すための即席のパーティであり、任務が終わば縁も切れるだろう赤の他人の集まりに過ぎないのだ。

まったくもって、妄言甚だしい。


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