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月へ唄う運命の唄
欠けた月は想いを映し8

――再起動――

…え。いつから?いつから私は彼の事をそういう意味で好きだったの?
あの頃にはもう妬いていたのだとしたら、一体何年私はこの"好き"を家族としての"好き"って勘違いしたまま過ごしてたの?
なにこれ、なんなのこれ、いやなんなの私、やばいなんか知らないけど今すっごい恥ずかしくて死にたいんですけど。

身体中を駆け巡る気持ちに身悶えしながら椅子にしていた木箱からずり落ちては、砂に顔が埋まるのも構わずにまるで水泳でもするかのようにジタバタともがく。
はたから見れば完全に異常者の奇行として映るだろうけれど知ったこっちゃない。とにかくギネス級に自分が恥ずかしくてたまらない。

「――っぷはっ!」

一頻りもがき終えて漸く少し落ち着いてから、砂から顔を上げる。
顔に付着した砂をポケットから取り出したハンカチを使い拭っていると、心の底から呆れたといった調子で姫が話しかけて来た。

『それで、やっと気が付いた感想はいかがかしら?』

「今すぐ切腹したい気分。介錯お願いしていい?」

『お断りね。存分に悶えなさい。私がどれだけ我慢していたのか数千分の一でもいいから知りなさい』

「あう…」

ごめんなさい姫。ごめんなさい私の初恋。こんな漫才にもならないような勘違いしてて本当にごめんなさい。

『に、しても。ここが明かりのない街の境界で、今が暗い夜で良かったわね。あの家屋くらいの距離なら貴女の奇行も見えなかった筈よ』

「言わないで…違う意味で恥ずかしいから…」

ぱんぱんとシャツやスカートの砂も丁寧に払って再び木箱に座る。地味に座り心地がいいような気がするのは何故だろうか。
そうして改めて、でも、と考える。
今更この"好き"が恋愛としての"好き"だった事がわかったとしても。私にやれる事はないし、やるべき事は一つしかないのはわかりきっている。

――初恋は叶わない。

ジンクスの通り、なのだ。
彼の目にはあくまでマリアン一人しか映ってはいないのだし、宣言し何年もそう過ごしていた事で、彼にとってもはや私とは妹でしかないのだから。
自覚しても何も変わる事などはない。

「――…、辛い、なぁ…」

ぽつり、小さく呟いて、再び夜空を見上げる。遠く見える欠けた三日月が、どこか私の心を映すように寂しく輝いて見えた。
自覚した瞬間には、もう振られてしまっている。…いや、実際にはきっとそうなるのだろうと容易に想像がついてしまい、擬似的に同じ気持ちを味わっているようなものだ。
目の奥がどうしようもないくらいに熱くて、思わず瞼を閉じてしまう。すると目尻から一筋の光が、頬を伝いつうっと流れ落ちて行った。

『…………』

姫は何も言ってくれない。こんな時に限って黙ってるなんて狡い。
…でも、今はそんな彼女に甘えて。もう少しだけこの気持ちに浸らせて貰おう。ずっと気付けなかった分、今は噛み締めて噛み締めて、この気持ちを大切に抱き締めていよう。
そうしてしっかりと心にこの恋を刻んで、この目の熱が冷めたら、いつも通り彼の"妹"に戻るんだ。きっとしばらくは少し辛いかも知れないけれど、それもこの旅が終わる頃にはきっと落ち着いてくれるだろうから、大丈夫だよね。
何があっても、この命をかける事になったとしても、私は家族として二人を守るから。

…だから、

……声に出して伝える、なんて迷惑な事はしないから。

一度だけ、言わせてね。

    ずっとずっと

     大好きだよ

     エミリオ…。

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2014/03/05

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