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月へ唄う運命の唄
欠けた月は想いを映し7

「経験って、何の経験?」

私はきちんと家族の愛情、知ってるよ。お父さんやお母さんから沢山の愛情を貰ったし、二人が大好きだった私も勿論愛してた。

そうしてすっかり暗くなった街の景色から視線を星の瞬く夜空へと上げて、今はもう居なくなってしまった二人へと想いを馳せる。…いや、あるいは居なくなってしまったのは私も同じであろうけれど。

『少なくとも、今貴女が考えたものとは別のものよ』

だとしたら、なんだというのだろうか。

『私が何故、今この機にこの話をしたのかを考えなさい』

我ながらお節介が過ぎるわね、とため息を吐いて。

『いつかは気付くと期待していたけれど、このままじゃもどかしくて気が狂いそうだわ。それに手遅れになって後悔させたくないの』

それきり、姫は口を閉じて沈黙した。身体の中から、なんだかもやもやするような苛立って仕方がないような、そんな気持ちが沸き上がってきた。もしかしたら、これらは今姫が感じているものなのかも知れない。融合してるから、こういうものも微弱ながら伝わって来る事がある。

「何故今なのか、ね」

そう独りごちて、夜の街を外れの方へと足を向ける。考え事をするなら、静かな場所で一人になりたい。
しばらく進んでいくと、少し開けた場所に出た。
街の境界らしいそこには、砂に半分埋もれるようにして木箱が落ちてる以外は少し離れた位置に家屋が数件あるだけだった。私はその木箱を椅子がわりに腰を降ろす。

そういえば、船でのあの時。いつもなら黙って傍観を決め込んでいる姫が珍しく話に乗ってからかってきた。あの時はなんだか無性に恥ずかしくなって慌てちゃってたから不思議に思わなかったけど、なんであんな煽るような事言ったんだろ。
それに、兄妹にしては微妙な距離感というルーティの一言。
正直言ってしまえばそれはこちらの台詞だと返してやりたいところだけど、ちょっとした引っ掛かりを覚えたせいか何も言い返せなかった。
……確かに、一人っ子だった私は本当の兄弟姉妹といったものを知らない。でも、彼の不器用な優しさだとか頼れるところ、なんだかんだと面倒を見てくれるところから、お兄さんが居たらこんな感じなのかなって思ってた。
だから、この世界に来てからの家族として彼に兄になって欲しくてお願いもした。
それと同様に、この世界で初めて優しさを、温かさをくれたマリアンもお姉ちゃんだって思ってる。

…でも何でだろう。

彼と、彼女。私が居ない場所で笑い合う二人。彼女にしか見せない表情、彼女にしか聞かせない穏やかで優しげな声音。柔らかな所作。…それらを初めて目撃した日以来、時折感じる胸の痛み。

大好きな二人が、仲良く談笑していた・ただそれだけの光景がなんだか酷く衝撃的で、思わず部屋の外で気配を殺して身を潜めてしまった事や、わざと遠回りして避けた事は一度や二度じゃない。
無論三人一緒に談笑することもあったけれど、どこか雰囲気が違う二人に遠慮してしまい先に席を立つ事が多かった。
…なんなんだろう。この胸のもやもやは。痛くて、苦しくて。あの笑顔が私も見たい。私にもあの声音で話しかけて欲しい。…ううん、私だけに向けて欲しい、独り占めしたいだなんて気付くと考えてしまってる。

…………もしかして私、マリアンに妬いてるの?

なんで?だって私にとってマリアンはお姉ちゃんで、エミリオはお兄ちゃんで…
でも、だったらどうしてこんな気持ち。だったらどうして、こんなにも彼の顔が頭に浮かんでくるの。その温もりを感じてみたいだなんて恥ずかしい事、考えちゃってるの。

…え。

まさか。

まさか、まさかまさか。

……私、まさか恋愛対象としての意味で、エミリオの事が"好き"だったの…?

唐突にどうしても嵌まらなかったパズルのピースが、かちりと音を立てて嵌まる。
途端、胸がきゅう、と一度収縮したように感じた次の瞬間には、破裂するかのような勢いで大きく脈打ち、送り出された血液が高い熱を持って全身に向かって血管を伝い飛び出し、勿論首から頭の先にも一気に駆け抜けては肌を真っ赤に染め上げて。

思考停止。


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