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月へ唄う運命の唄
欠けた月は想いを映し6

どうしようかと悩んでいると、やがて意を決したようにフィリアが口を開いた。

「私が巡礼者を装って神殿に潜入してみます。皆さんは夜になってからお越し下さい、裏口の戸を開けておきます」

「大丈夫なの?」

「巡礼者が各地の神殿に滞在するのは、珍しい事じゃありませんから。昼の間は、見つからないようおとなしくしていますわ」

「そう…でも無茶はしないでね」

力強く頷いたフィリアは、えぇ、と笑顔を見せてくれると神殿へと向かって行ってしまった。

「行ったか」

彼女が巡礼者として内部へと神官に案内され姿を消した後、エミリオが呟いた。

「あとはあの女が上手く立ち回る事を祈るのみ、だな」

「きっと大丈夫だよ、フィリアなら。この中で彼女程神殿の事情や神官の心理に詳しい人はいないし、今や彼女にはクレメンテだってついてる。…万が一、がないとは限らないけど。仲間なら、信じてあげなくちゃね」

「……………、仲間…か」

ぼそり、神殿の方を見つめこちらを見ないまま何かを呟いたみたいだけど、あまりに小さかったせいかそこだけは聞き取れなかった。

そして。約束の時間、夜になるまでにはまだ時間があるという事で、消費したアイテムの補給や武具の調達などを兼ねてしばらく自由行動となった。
エミリオは仮拠点として宿を取ると言って先に離脱。マリーとルーティは物資の補給係。ついでにスタンを荷物持ちとして強制連行して行った。
そして私はといえば、この街の探索に出た。別に観光目的というわけではなく、地理を把握するためだ。いざという時の退路の確認、また敵の逃走経路の予測。…とはいえ、相手はセインガルドの神殿を壁ごとぶち抜いていくような奴らだ。常識的な経路はまず使われないとは思うけれど、一応把握しておくに越した事はない。一通り街を巡って一段落ついた頃には、もう日が落ちて人通りも大分少なくなっていた。

「んー、と。こんなところかな」

『だいたいの絞りこみは出来たわね』

「そだね。出来るだけ神殿で片をつけたいけれど」

『そこは実際に突入してからの状況次第ね…ところで』

不意に真面目だった姫の声のトーンが、不穏な方向にシフトした。

『結局、貴女質問には答えずうやむやになったけど、実際はどうなの?彼の事』

…何を言い出すかと思えば…

「あ・の・ね…姫。知ってるでしょ?私達は兄妹みた『いなものと思い込んでる"だけ"、と考えた事はないのかしら?』

…どういう意味?

『貴女は彼が酷く特殊で厳しい環境で生きてきた事を知っているわね…抱く想いも含めて』

「推測だけどね。彼自身はその辺りを語らないし、安易に踏み込んでいい事じゃないから」

母親は彼を産んで間もなく他界。それ以前に産まれた姉は彼が産まれる前に捨てられ、顔もわからなかった。父親は別の凶悪な魂に肉体を奪われ表に出る事はなく、殆ど死んでしまっているも同然の状態。あげくその肉体を支配している者には幼い頃から今なお道具として扱われる日々。
肉親の、家族の情を知らない、ほんの一時でも触れる事さえ叶わなかった人生。
……マリアンに聞いた話など断片的な情報の数々を統合すると、凄惨と言っても過言じゃない人生を送っているという答えに行き着く。
そしてそんな中でただ一つの安らぎを母親の面影を宿すマリアンという女性に見出だし、本来家族から受け取る筈だった・贈る筈だった分の想いを寄せ求めている……愛情、という形で。

『互いの立場上決して叶わない、悲しい彼の恐らくは初めてであり唯一の恋が、しかし恋とは違うという事を』

「………」

それに気付いたのはもう数年も前の事だ。けれど、それが私達の関係とどう繋がると言うのか。

『鈍いのもここまで来ると罪ね。まだわからないのかしら?』

なんか凄い馬鹿にされた気分。

『私は、ある意味では貴女も彼と同じだと言っているのよ。経験がないが故、という点において』


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