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月へ唄う運命の唄
欠けた月は想いを映し4

頭の中でぐるぐる回る反論の言葉は声にならないまま、自分と彼との関係性を言い訳する中で何かが胸に刺さったような痛みが走った。疼くようなそれは混乱していた思考を止めるには十分な痛みで、気にしないようにすればする程少しずつ胸の奥深くへと沈んでいくような気がする。
不意に感じたそれの正体を掴めぬまま、熱を持った顔を俯かせて押し黙っていると、唐突に頭に柔らかな掌の感触を感じた。そしてそのままわしゃわしゃと撫でられる。

「あっはは、ゴメンゴメン、ちょっと苛め過ぎたかしら?でも兄妹にしてはちょっと違和感を感じるのはほんとなのよねー。微妙な距離感、ていうの?てゆうか、どしたの?ヘンな顔して」

「………なんでもないっ」

ぷい、とルーティの反対側に顔を逸らす。あ、フィリアこうして近くで見るとやっぱり可愛いなぁ。

「あんまり可愛い反応しないでよ、抱き締めたくなっちゃうじゃない」

「わぁっ!?」

抱き締めてる抱き締めてる!

「あ、ルーティさん狡いです。私も!」

「可愛いものは愛でなければな!」

何を思ってかフィリアやマリーまでくっついてきた。ちょ、何この状況?
…と、よくわからない状況に困惑していると甲板に一つの足音が響き、それは怒気を伴って一直線に私達の方まで迷いなく向かってくる。――そして。

「あいたっ!?」

ゴン、と鈍い音がルーティの頭から発せられると、漸くもみくちゃにされていたためわからなかった足音の正体が明らかになる。

「戻るのが遅いからと様子を見に来てみれば…貴様、クノンに何をしてくれている」

「リオン」

それは渦中の人物、エミリオだった。シャルを鞘ごと幹竹割りで叩き付けたルーティの頭に乗せたまま彼女を睨み付けると、ぐい、と手を引かれ立ち上がらされる。

「クノン、カルバレイスに到着するまでに今後の方針を相談したい。その様子だと今日の指導は終わったのだろう?その女の馬鹿が伝染る前に行くぞ」

「う、…うん、わかった」

なんだろう、彼に触れられた手がやたらと熱い。手から腕、腕から身体を伝い熱が顔まで昇ってくる。今までは手を繋いだってそんな事なかったのに、あんな話をしたせいなのか、どうにも落ち着かない。それに何故か、その落ち着かない気持ちをたしなめるかのように胸の痛みが強くなったような気もする。
……こうなったのも全部ルーティのせいだ。

余程強く打たれたのだろう、未だに涙目で頭を抱えて蹲る彼女に心の中で舌を出した私はエミリオに手を引かれつつ甲板を後にした。


――カルバレイス。そこは遥か千年もの昔、嘗ては第二大陸と呼ばれていた熱砂の大陸だ。年中満遍なく高い気温に晒された大地は渇き、砕けた土は砂となり風に巻かれては降り積もり、一部の乾燥に強い種以外の緑の生存を許さず、また動物も同じく弱い種はとうの昔に淘汰され尽くした孤独な土地である。
そんな中、必要最低限の装備で進む一団があった。禍々しき厄災とされ封印されていた神の眼を奪い、逃走を続ける元大司祭達を追うクノン達である。

「貫け!アイスニードル!!」

乾燥した大地に適応するように熱に非常に高い耐性を持つよう進化したモンスターは、反属性の冷気に弱い。そこで水属性を持つルーティ・アトワイトの晶術を主軸とした陣形での戦闘になっていた。

「恵みを断罪の徒とし集結せよ、冷却・凝固・研磨・騎士の槍とし魔を穿て!"殲閃氷槍"!」

ルーティの氷柱に続き、水筒から掌に水をかけ敵に向かってそれを弾き出す。すると見る見る弾かれた水滴は凍り付いていき、やがてその水滴が数十本から成る氷で創られた三角錐の突撃槍となり次々と広範囲に飛んで行く。
それを放ったのはクノンである。普段は長い詠唱を必要としない巫術だが、未だに完全な巫術の体系では発動すら困難な為、精製の段階から着弾までの簡略化した命令文を詠唱しなくてはならない攻撃巫術。

「ふい〜、やっと終わったぁ」

「…お前でもまだ、雷と風以外は術に手間が要るようだな」

スタン、マリー、エミリオはルーティとフィリアを含む私達砲台役を守る壁役になってくれている。


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