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月へ唄う運命の唄
欠けた月は想いを映し3

チリ、パチッ

彼女の生み出した電気が爆ぜる音が僅かに漏れでる。
食事を終えて一休みした後、見学するというルーティとマリー、そして戦い方を教えるフィリアを伴って甲板に出た私は、まず剣術の基礎から教え込む事にした。
半ば予想通りではあるものの、長年神殿に神官として仕えてきた彼女の運動能力は決して高くはなく、むしろ普通の女の子並みの素の私よりも低いくらいで、なかなか厳しいものがあった。
一通り基礎の型や足運びを教え、毎日欠かさず鍛練を地道にこなして貰う事にした私は次に術の指導へと移行。
…するとどうだろう、元から素質はあったのか、晶術についてルーティやアトワイトの助言も手伝ってするすると知識を飲み込むと、僅か三時間程で下級晶術を実戦で使えそうな水準にまで会得してしまい、難航すると思われた生体電気の操作も、基本となる流れの把握までも殆どモノにしてしまっていた。

「…驚いた…」

『本当ね。これ程とは思わなかったわ』

『そうじゃろうそうじゃろう、なんと言っても儂が選んだマスターじゃからの』

本当に驚いた。もしかしたら、彼女は術師としては本物の天才かも知れない。こんなに早く扱えるようになるなんて思ってもみなかった。

「…っ、はぁっ、はぁ…でも、やはりクノンさんのようにはいきませんね。身体を動かさない状態でもなお、必要な集中力もさることながら流れの複雑さが半端ではないですもの。道筋を追うのが精一杯ですし、何度も見失いかけましたわ」

「初日でこれ以上に使いこなされたら、私の立場ないよ…。とりあえず今日はこのくらいにして、また明日にしよっか」

「フィリアもクノンもおっ疲れー。飲み物持って来たわよー」

ちょうどいいタイミングで、ルーティが冷たい果実のドリンクをトレイに乗せて甲板に上がってきた。有り難く頂戴して、甲板の壁を背もたれにフィリアと並んで座る。
すると彼女の反対側、私を中心にして挟むようにルーティが隣に座ると、まるでこの時を待っていたかのように怪しく目を光らせた彼女は私の顔を覗き込んできた。

「ところでさ、クノンとあのクソガ…リオンって、どこまで進んでるの?キスとか?」

「っっぶぅっ!?」

余りにも唐突な質問に思わず口に含んだドリンクが僅かに噴き出してしまった。

「〜〜っ、げほっえほっ、…ななななな、いきなり何言い出すの!?」

「ほっほう…その反応はまさか…」

「まさか、もうキ、キキ、キスまで経験されて…?」

なんか予想外な人まで食い付いてきた!?

「ちち、違うよっ!違う違う!!私達そんな関係じゃないからっ!兄妹みたいなもので!!」

『…(クスッ)そうね、そろそろ白状したらどうかしら?融合している私に誤魔化しは通じないけれど、私が眠っている間に…とも限らないわけだし』

「姫っ!?」

「ほぉ〜らとっとと白状しないと、酷い目に遭わせるわよ〜?」

「ど、どうなのですか?」

『私もちょっと興味あるわね』

「どうなのだ?」

「アトワイトにマリーまで!?」

ずい、と左右から詰め寄ってくるルーティとフィリア。確実に幻だけれど正面からはアトワイトがマリーに重なってにじり寄ってくるような姿まで見えてくる。後ろは壁、逃げ場は無し。頼みの姫にまで裏切られた私はまさに四面楚歌。助けてヘルプ。

「ふっふっふ、ネタは上がってんのよ。あいつがやたらアンタにだけ優しかったり、アンタに近付く奴を見るとただでさえ仏頂面なのにわっかりやすく眉間に皺寄せたり…」

いや私にだけ優しく感じるのは比較対象が付き合いの浅いスタンやルーティ自身しかいないからで、私に近付く人を警戒するのは兄が妹を心配するみたいな保護欲的なもので、第一エミリオが好きなのはマリアンであって…、

――ちくり。

…………ん?


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