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月へ唄う運命の唄
欠けた月は想いを映し2

――きっかけは、新しくソーディアンマスターとなった彼女の一言だった。

「私に、戦闘の手ほどきをお願いします」

新たなソーディアン・クレメンテを手に入れて翌日の朝、皆で朝食のパンをかじりながら談笑をしていると、対面に座っていた私に真剣な目を向けてフィリアが言った。

「え…私?」

突然の申し出に、パンを口に放り込もうと小さく千切った欠片を手にしたまま思わず動きを止めてしまう私を見る彼女の目は真剣そのもので、どうにも抗いがたい雰囲気を醸し出していた。

「んぐ、んく…ふーん、いいんじゃない?」

咀嚼していたパンをミルクで流し込んだルーティが言う。

「でも、なんで私なの?」

「昨晩、クレメンテと相談して、師事するならば貴女以外にない、と結論が出たのです」

「でも私、クレメンテみたいな大剣は勿論、西洋剣向きの剣術は使えないし…術だって、方式の違う巫術だよ?」

「あ、じゃあ剣は俺が教えy『お前はいつから人に教えられる程強くなったのだ?』……しょぼん」

代わりに俺が、と申し出ようとしたスタンがディムロスに一刀両断されしょぼくれる。なんだか雨に濡れた仔犬みたいで可哀想になる。

『剣術については基礎だけでよい。元よりこの大きさではフィリアにはちと荷が重いし、直接戦闘は不向きな娘じゃからな。じゃがクノンよ、儂はその弱点を補う術をお主に見出だした』

『…もしや、』

『その通りじゃよ、紫桜姫よ。儂が司るは光属性。無論クノンの得意とする雷もその範疇じゃ。お主は戦闘時、生体電気を操り肉体を強化しておると聞いてな、晶力を用いて扱えないかと踏んだわけじゃ。そして得意属性が近いならば、攻撃術を互いに模索し合えるじゃろう?』

………理論的には、恐らく可能。力の湧出元が違うだけで、ほぼ扱い方は同じ。現にエミリオだって、晶力を元に通信術の起動には成功している。だから扱えないわけではないとは思う、けれど。

「戦闘術として常時実戦に使える水準となると…難しいかも知れない」

『比較的簡単で単純な術ならば大雑把な起動でも問題は無いわ。けど、生体電気の操作は非常に複雑だし、一歩間違えば肉体の機能を一生失う事にもなりかねないわよ。それを覚悟の上なら止めはしないけれど』

「覚悟の上です。それにあくまで私は、前衛ではなく後方からの砲台役になると思いますし、万が一懐に入られた時に動かぬ的、では困りますから」

「…ん、わかった。フィリアが覚悟の上でそういうなら、教えるよ。でも、くれぐれも直接戦闘に使おうとはしないで。私はこれを小さい頃から剣と一緒に何年もかけて身体に馴染ませて補助術式を併用してるから戦えるけど、フィリアにはその時間はないんだから」

「はい…宜しくお願い致します」

頭を下げる彼女を横目に、私の隣でエミリオが何故か少し不機嫌気味に鼻を鳴らすのが聞こえた気がした。何か気に障るような事でも言った……、あぁ。もしかしてまだフィリアを戦力として数える事に納得してないのかな。

…と、それまでしょぼくれて俯いたままのスタンの伸びっぱなしの金髪を三つ編みにしたりパイナップルみたいにゴムで縛ったりしてマリーと遊んでいたルーティが話に割って入って来た。

「ねぇねぇ、なんか面白そうだから私もけんぶ…見学してもいい?」

「いいけど…」

なんで言い直したの。

「やった♪ならちょっと一休みしたら甲板に行きましょ。それに晶術の事ならあたしも力になれると思うし」

何やら意味深な笑みを浮かべた彼女が、少しだけ不気味に思えた私の予感がこの後的中するなんて思わなかった。


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あきゅろす。
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