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月へ唄う運命の唄
第四のソーディアン7

スタンが言うこの中、というのは無論ソーディアンマスターの資質を有する証拠として声が聞ける者の中、ということだ。が、何度も言うように出来る事なら私はマスターにはなりたくない。元々この世界の人間ではない自分は、やはりどう考えても持つべきじゃない。
…先程の会話の中で、『たっぷりサービスを頼むぞい』と宣ったクレメンテのいやらし過ぎる笑い声に姫がやたら警戒心剥き出しで毛嫌いしているのは別にして。

私でもきっと性的な意味だろうとわかる言い回しだったけど、それを「研いだり磨いたり」としっかり手入れする事だと思ったスタンは平常運転というかなんというか。そんな純粋な彼にはさすがのクレメンテも直接的な表現は憚られたのだろう、『ロマン溢れるというか何と言うか…』と言い淀んでいた。そんなロマンなんかごみ箱に丸めて捨てちゃえ。

『残念じゃのう、儂としてはこう、両手に花、とi『黙りなさい。貴方という枯れ木に添えられるくらいならば大人しく散る道を選ぶわ』

『………つれないのう。まぁ冗談は置いておくとしてじゃ。儂のマスターならばもうおるよ。ここまでおいで…フィリアや』

クレメンテがそう言った直後、背後で自動扉が開き一人の少女が姿を現した。それは……

「『フィリア!?』」

ラディスロウ入り口の結界内にて待機していたはずのフィリアを見た皆は声を揃えて一様に驚きの声を上げた。

「…皆さん、勝手な真似をしてしまって申し訳ありません。そして…私を呼んでいたのは貴方ですね」

スタン、私、そしてみんなの顔を見て申し訳無さげに一度目を伏せ頭を下げたフィリアは、顔を上げると真っ直ぐにクレメンテの方を見据え歩み寄っていく。
どうしてだろうか、今の彼女には不思議と先程までのようなどこか迷うような、不安定で危なげな雰囲気は無くなっている。それどころか、何かを決意し芯が一本通ったような凛々しささえ感じた。

『主には儂を欲する意思があった。強くなりたいという、直向きな意思が。故に、儂の声が聞こえたのじゃ。儂は主に力を授ける事が出来る。後は最後の決断だけじゃ。どうする……フィリア・フィリスよ』

「フィリア…」

先程までとはうってかわり、厳かな雰囲気でフィリアへと決意を問うクレメンテ。彼はきっと理解した上で、改めてフィリアの決意を確認したいのだろう。そしてそれはクレメンテ自身だけではない。この場に居る全員に彼女の決意を知らしめる為でもあるはず。守られるだけの立場であった、"非力な彼女"はここで終わりであると。これからはともに対等な立場で戦う"戦友"になるのだという事を。
その意図を恐らくはいち早く察知したのであろうエミリオは一人、小さく舌打ちをしていた。

「私は大司祭…いえグレバムから、神の眼を取り戻して見せます。何があっても、どんな事をしても。それが私の責任、私の義務ですから」

強く、強く。それまで抱え込んでいた想いを全て吐き出すかのようにそれを口にするフィリア。その内には目映く燃え盛る決意の焔。

…そう、これは私の役目。もう誰かに任せて守られてばかりいるわけにはいかない。役立たずな私でばかりいるわけにはいかない。私も…いえ。私こそが戦わなくてはいけない。ならば、例えこの手を血で汚す事になろうとも、どれだけ傷付いたとしても成し遂げなくてはいけない。……だから。

「貴方と共に戦います。私に力を。……クレメンテ!!」

柄を握り、ふらつく事も躊躇う事もなく力強く引き抜き天へとその刀身を掲げる。契約の光が辺りを包み、そしてやがて収束し消えた後には、もう気弱で守られるだけだったフィリアはどこにも居なかった。

「やったなフィリア!」

「これもスタンさんが元気付けてくれたお陰ですわ」

彼女の横に駆け寄るスタンは、まるで自分の事であるかのように満面の笑みで喜んでいた。フィリアも勿論、その表情は晴れやかだ。…そして。

「リオンさん、改めてお願いします。どうか私も、一緒に戦わせて下さい」

そう正面から言われた彼は憮然とした表情のまま、やがて背を向けると。

「…………ふん。足手まといになるなよ」

不機嫌な様子を隠そうとしないまま、だがしかし相手に伝わる音量でそう一言告げる。

「彼女はもう大丈夫だよ。…それに私"も"守るから」

喜びを分かち合う他の仲間達の話し声に隠れ、彼にだけ聞こえるようにそう笑顔で伝えたら、照れ隠しなのか「余計なお世話だ」とデコピンされた。きっと姫の『拗ねちゃって可愛いわね』発言のせいだ。…地味に痛い。

『上手い具合に纏まったな』

少し涙目になりながら赤くなっているであろう額を軽くさすっていると、ディムロスの安心したような声が聞こえてきた。

『うむ、これで儂も一安心じゃ。どうせ新たなマスターを得るのなら、ぴちぴちの娘の方が良かったからの』

……やっぱり姫の言う通り一回へし折っておくべきなのかな。真面目な時と普段のスケベお爺さんな時との落差が凄いんだけど。剣だから直接的にどうこうあるはずはないんだけど、軽く身の危険を覚えるってどういう事?フィリアが凄く心配。

『老……』

『あはは…それでは、船に戻りましょうか』

心底呆れたようなアトワイトの声と、乾いた笑いのシャルの一言に促され私達はラディスロウを後にした。

next.....
2013/11/16

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