月へ唄う運命の唄
第四のソーディアン4
――そして私達は今、千年前地上軍の空中戦闘母艦として勇名を馳せたと云われるラディスロウの中にいる。嘗て第二大陸といわれたカルバレイス付近の海中、その底へと目的のソーディアンとともに封印された船だ。
初めどうやって海底に沈むラディスロウへと侵入するのかと心配していたが、最寄りの海上へ到達した時にディムロスの指示の元、アトワイト、シャルとともに刀身を空へかざすと、なんと海底から巨大な龍が出迎えとして浮上し姿を現した。
三人の呼び掛けに呼応したソーディアンによって寄越された龍は海竜というそうで、用途はセインガルドが現在保有する飛行竜と同じであるらしい。
促されるままに乗り込めば成る程、確かに有機的な造りながら人口の乗り物として手を施された内部は飛行竜のそれと酷似している。
乗り込みに際して海竜の口から入るのは、正直言って丸呑みにされる生け贄のような気分でゾっとしなかったけれど。
「この先は何があるかわからない、フィリアは海竜の中で待っててくれ。…文句はないよな、リオン?」
ラディスロウの入り口で、ふとそんな事を言い出したスタン。エミリオはといえば、勝手にしろとでも言いたげに顔をそむけ背を向けるばかり。
「フィリアが残るなら、護衛として私も…と言いたいのは山々なんだけど…」
視線を左手に向けると、どういうわけかエミリオの手によってがっちりと拘束されてしまっていた。一体、どうしたのさ。
「…と、こんな感じだからごめんね?」
「いえ、お気になさらないでください。私はここで皆さんのお帰りをお待ちしてますから」
それを見たフィリアは苦笑いしつつ答えてくれた。…あ、そうだ。
ふとある事を思いついたクノンは、リオンに手を放してもらうと道具袋から数枚の護符を取り出し、ラディスロウからの出口となる付近の壁の両端とその中央の床に直線を描くようにしてぺたぺたと貼り付け始めた。
「おい、何をしている」
「ん?もうちょっと…ふぅ。フィリアさん、この護符のラインより出口側に2・3歩離れて立って…うん、そこでいいよ」
「あの…?クノンさん?」
「いくよ。…"急急如律令"」
ぱん、と柏手一つ。クノンの言霊が発されると同時、貼り付けられた護符が一斉に淡い光を放つと、壁や床に吸い込まれるようにして溶けて姿を消してしまった。
「おい、だから何をしていると言っている」
「ごめんごめん、えーと、…これでいいか」
キョロキョロと辺りを見回したクノンは、手近に落ちていた何かの部品らしき太めのネジを、突然フィリア目掛けて全力で投げた。そしてネジがちょうど護符のライン上を通過しようと到達した刹那。
バヂリ!
耳をつんざくような爆ぜる音とともに、ラインの向こうとこちら側を遮断する形で突如展開された電撃迸る網に絡めとられ、僅か数秒の内に跡形もなくネジは消滅してしまった。
「…おい、今の物騒なものはなんだ」
「雷壁陣。結界だよ。一応発動条件は人間以外として設定してあるから、私達人は通過自由だけど。フィリアさん、大抵のモンスターや攻撃はこれで防げるから結界のラインから外には出ないようにね」
「わかりました。お気遣いありがとうございます」
『発動条件が人以外ってことは…僕らソーディアンはどうなるんですか?』
「…試してみ『やめて下さい怖すぎます!』
「大丈夫大丈夫、身に付けてる状態なら"人の所有物"扱いでスルーだから。でなきゃ通るのに裸にならなきゃなんないし」
『し、所有物…ですか。にしてもそうですよね、ちょっと惜しいような気がし「シャル、お望みなら今すぐこんがり焼い『てませんよ勿論!?』
などとくだらない冗談を言い合いつつ、私達は四本目のソーディアンを回収するべくラディスロウの奥へと進んで行った。
《フィリア…フィリアよ……》
「頭の中で私を呼ぶ貴方は一体、何者なのですか…?」
一人残された彼女に起こる、静かな異変に気付くこともなく。
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