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月へ唄う運命の唄
第四のソーディアン3

元の世界での、それも広くは知られてはいないだろう概念であるだけに理解して貰えるかは不安が残るものの、一応は説明を咀嚼し理解しようとして貰えているようだ。少しだけその様子に安心した私は説明を続ける。

「それでこの耳栓に、私の"おまじない"をかけたの。エミリオの船酔いを楽にしてあげて・その原因を取り除いてあげてっておまじない。乗り物酔いって、要は平衡感覚の狂いから生じるものだから、それを司る部分、耳に"栓をする"事で平衡感覚を狂わせるものが"入り込まない"ように蓋をしてあげるように。勿論物理的な意味じゃなくて、概念的な意味で。だから実はその耳栓、真ん中に穴も空いてるし音だって遮断されない。"塞いで遮断しようとする行為"に意味があるから」

「…む。つまり、なんだ…その、…むう…」

『すみません坊っちゃん、僕はもうギブです』

あぁ、予想はしていたけど専門的過ぎて難しかったよね。ごめんね、私もこれすっごく説明しにくいの。

「んー…だから、結論だけ言えばその耳栓に私がかけた"呪い"の効果で乗り物酔いしなくなるって事と、一口に"呪い"って言っても悪い事だけじゃないんだよって事」

『ついでに補足すれば、それら"呪"というものは私達が使う巫術や貴方達の使う晶術の基礎中の基礎・前段階という事になるわ。私達の巫術は主に退魔の力として、貴方達の晶術は主に戦争の兵器として、"呪"を一つ先へ昇華し"術"として行使する。…って、あら?シャルティエ?』

見ればシャルのコアクリスタルが、寿命を迎え切れてしまう寸前の電球のように弱々しく明滅を繰り返している。肉体があったなら間違いなく頭から湯気でも出していそうな姿が想像出来た。もしかしたら姫にはその姿が見えているのかも知れないけれど。

「僕とした事が少々頭が痛くなってきたが、なんとか概要程度は理解出来た…気がする。本当に気がするという程度だが、いずれにせよありがたい。礼を言う」

やっぱり余程船酔いが辛かったのだろう、彼にしては非常に珍しく素直に感謝の言葉を貰えた。喜んで貰えたんだよね、うん。

『シャルティエにはほんの少しだけ、難しかったかしら?ソーディアンを創った者なら簡単に理解出来ると思うわよ?』

『うう…、博士のような天才と一緒にしないでください…あの人と違って僕は凡人なんですから。そう、僕は凡人なんです。チームのみんなや坊っちゃん達と違って凡人なんです』

あ、なんかシャルに変なスイッチ入ったみたい。もの凄い小声でぶつぶつ呟いてる。

「姫、言い過ぎだよ。"呪"の概念は私達独自の文化があってこそ生まれたものだってわかってていじめちゃ可哀想」

『あらあら、背中を向けて膝など抱えちゃって…可愛くて抱きしめて撫でてあげたくなるわ』

あ、そんな状態なんだ今。そしてやっぱりたまにドS。

「いじけたシャルは暫く放っておくとして、もうすぐ日が沈んでしまう。そろそろ戻って今日は休むぞ」

『いいんです、そもそも僕がソーディアンチームに選ばれ…ブツブツ』

いいのかなぁ、放っておいて。
すっかりいじけモードに引きこもってしまったシャルに気をひかれながら、私はエミリオに言われるまま甲板を後にした。

そして翌日。
ディムロスに呼び出された私とエミリオは、船内ロビーへと集まっていた。そこで提示されたのは、戦力の増強として新たなソーディアンの回収とそのマスターへと私への依頼。
確かに今いる面子の中で、資質を持ちながらも未だマスターとなっていないのは私だけだ。けれど、私はマスターになる気はない…が、それでももしこの先どうしても候補が見つからないのであれば、最悪覚悟を決めなくてはならない。
神の眼とは、それほどに凶悪で脅威である事は容易に想像出来るからだ。


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