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月へ唄う運命の唄
静寂の神殿と神官7

エミリオが戻ってきて暫くすると、新たに船が一隻、乗船場へと接岸した。どうやら彼が手配したらしい、グレバム達を追うための特別船のようだ。

「いきなり特別船を仕立てるたぁ、あんた大したコネの持ち主だな」

そういって苦笑いする船乗りにも特に反応を示さず、暗い表情で何やら考え込む人物が二人。…一人は、クノンのすぐ隣に居るエミリオ。そしてもう一人は、

「あの、皆さん。お願いがあるのですけれど。…これからは私も、皆さんと一緒に戦わせて貰えませんか?」

ストレイライズ神殿を出発してから、ずっと悩んでいたフィリアだった。

「気持ちはわかるけど、危険だよ。今まで戦った経験とか、あるの?」

どうかお願いしますと懇願するフィリアに、スタンは少し困り気味の表情を浮かべつつ返す。

「ありません…ですが、私には大司祭様を止める責任が」

「無理はするな。人には向き不向きがある」

優しく諭すマリーの言葉も、どうやら彼女の決心の前では意味を成さぬようだ。覚悟は出来ていると、振り払ってしまう。その真剣さに圧されて、スタンが承諾してしまいかけた所に冷たい言葉が割って入った。

「お前を連れて来たのは、グレバムの面通しのためだ。それ以上は期待していない。余計な事は考えるな」

「そんな言い方ないだろ、フィリアなりに考えて決意した事なんだから」

エミリオの言い方が気に入らなかったのだろうスタンが庇うように反論するも、武器を持った事のない人間に何が出来る、と返され言葉に詰まってしまう。話を切り上げて船に乗り込もうとする彼に、それでも食い下がろうとするスタンへ、今度はディムロスによる制止がかかった。

『やめんかスタン。リオンの言っている事は正しい』

「少し、というよりかなり厳しい言葉だったけど、私も正論だと思うよ。それに、」

――必要以上にきつく言うことで、フィリアを危険から遠ざけようとしたんだと思うよ?――

スタンの肩を引っ張り、位置を下げて小声で耳打ちしてやる。これが彼に聞こえていたら、きっとすぐさま"足手まといを増やしたくないからだ"だの、"的外れな深読みをするな"だのと怒られてしまうに決まっている。そうなのかな、とスタンが困り顔で後ろ頭を掻いているところに、ヒューゴが従者であるレンブラントを伴って港へと姿を現した。

「出港出来そうかね?」

「…もう少しで、出港の準備が整います」

「そうか…私に出来るのはこれくらいだ。しっかりと使命を果たしてくれたまえ」

「ご武運をお祈りしておりますぞ、坊っちゃん、クノン様」

伏し目がちに弱々しく返事をしたエミリオは、準備が出来たと乗船を促されるまま船へと真っ先に乗り込んでしまった。…報告した時に何かあったのかな。

ともあれ、彼に続いてルーティやマリーも船に乗り込んでいった後を私も追おうとするが、ふと動かない二つの影に気付いた。スタンとフィリアだ。

「フィリア?」

「私、昔からこうなんですよね。役立たずとか、邪魔だとか言われてばかりで…あ、ごめんなさい、船に乗るんでしたよね」

心配そうに声をかけたスタンにそう溢したフィリアであったが、やがて思い出したように慌てて皆を追い駆けて行ってしまった。

「フィリア…」

「スタン、とりあえず私達も乗ろう。少し落ち着かせた方がいいよ」

「…わかった」

うかない顔で佇むスタンの手を引いて、私達も船へと乗り込んだ。


――「カルバレイスのバルックに、連絡は取ったか?」

「抜かりなく済ませてございます。ご安心下さい」

リオン達を乗せた特別船が港を出港し、少しずつその姿を縮めて行く中、それを厳しい目付きで眺めていた男は従者へと確認を取る。滞りなく行われているとの返事に一つ頷くと、もう一つの案件についても確認する。

「例のモノの手配はどうなっている?」

「そちらにつきましては、情勢の関係で些か苦労を強いられましたが…それに関係すると思われるモノは全て手に入れる事が出来ました。…無礼を承知でお尋ね致しますが…あのように時代に取り残された国の文献など、どうされるおつもりで?」

「ふ…どうするもこうするもない。私は、"考古学者"なのだよ。今も昔もな…それだけだ」

「左様でありますか。…ヒューゴ様の書斎へと運び込むよう手配しておりますので、夕方頃にはご覧になれるかと」

「うむ。…では屋敷へ戻るとしよう」

そうして男は不敵な笑みを浮かべつつ、従者を伴い港を後にした。全てを呑み込む、壮大な計画。それを成すためのピースが、漸くその手中へと収まったことに満足しながら。

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2013/06/12

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