[携帯モード] [URL送信]

月へ唄う運命の唄
静寂の神殿と神官6


「だぁあっ!爆炎剣っ!!」

渾身の力を込めて振り下ろす剣に裂かれつつ、触れた刀身から紅蓮の炎が飛び出し爆散するモンスター。炎熱系統を弱点とする敵が多いこの森ではスタンとディムロスを主軸とした陣形をとっているのだが、他のメンバーを信用していないリオンは一人遊撃を担当している。強力な敵は居ないここではそれでも通用するのだが、このままではいつか足元を掬われるだろうことは彼も承知している筈なのだが。

こればかりは、仕方ないのかな。時間をかけて、信頼を勝ち取って貰うしかないよね。

非戦闘員であるフィリアを庇うため前へは出ずに、前衛で戦うリオンや(主に)スタンが討ち漏らした敵を迎撃しながらクノンは密かに溜め息をついた。

「あの、ごめんなさい、クノンさん。私のためにお手を煩わせてしまって」

どうやらクノンの溜め息を自分のせいだと思い込んだらしいフィリアが、庇われた背中から弱々しく声をかけてくる。

「え、…あぁ、ごめんね。フィリアさんのせいじゃないよ。もう少し、私の上官がみんなを信頼してくれたらなって思って」

「そうですか…?でも、もしも私に戦う力があったのなら、皆さんのお役に立てるのにと思うと…」

「フィリアさん、無理はしなくていいよ。それに戦うということは、"そんなに簡単な事じゃない"。神官って事は、武具や武術の経験はないんでしょ?一朝一夕じゃ身に付かないよ。それにもちろん、技術だけじゃない。命を奪い、奪われる…そういう覚悟と責任を背負わなきゃならなくなる。だから、無理したり無自覚だったりすると、取り返しのつかない事になるよ」

そう背中越しに伝えると、彼女はそのまま黙り込んでしまった。

少し、きつい言い方になっちゃったかな。もう少し違う言い方もあったかも知れないけど、戦うことの怖さを知って欲しかったから。小さな頃から武道に慣れ親しんできた私でさえ、初めて生の戦場に立った時はその空気に呑まれそうになった。たった一つの判断ミスや焦りが、例えなんかじゃなく文字通りの"死"に直結する事に恐怖した。自分がそこで生き残るという事は、相手の命を犠牲にしたという事だと学んだ。

私は経験と剣士であるという自己暗示、そしてエミリオ達を守るという覚悟で乗り越えることが出来たけれど、フィリアにそれを強いることなんて出来ないよ。
背後で落ち込むような気配を感じつつも、私は襲い来るモンスターを迎撃することに集中した。

――…そうしてまた数時間ほどかけてダリルシェイドへと戻ったクノン達は、情報を集める為に港へと向かい、そこで確かに巨大な荷物を積んだ大型船が先程出港していたという情報を得た。

「ち、一足遅かったか…!」

苦虫を噛み潰したような顔で舌打ちをするリオンの脇で、やはりとクノンは一人予想していた展開に溜め息を漏らす。事が起きてから時間が経ちすぎている。

グレバムの反乱から兵士が城まで助けを求めに来るまでの時間、派遣兵であるクノン達が説明を受け神殿へと到達するまでの時間、奪われた事を確認し戻ってくるまでの時間。これだけでも相当に時間をロスしてしまっている。それに恐らくは、あのこれ見よがしに発見してくださいと言わんばかりにわかりやすい目印の浮かぶ結界石を使った扉の封印…あれも時間稼ぎが目的の一つだったのだろう。
鈍重な硬いだけが取り柄の番兵を置いていったのも時間稼ぎが目的ならば納得がいく。結界を破らせないためならばもっと他にやりようはあるはずだからだ。

「大がかりな反乱を企てるだけあって、案外やり手みたいだね」

「忌々しいがそのようだな。…僕はこの事を陛下に報告してくる。ついでに追跡用の船も調達してこよう。…クノン、お前はあそこで涎を垂らしている馬鹿どもを叱咤して旅の準備を整えておいてくれ。考えたくはないが恐らくはこの任務、長引きそうだからな」

そう言ってリオンが示した先では、スタンが漁師の賄いであろうスープの入った鍋を前にして目を輝かせ、その横では中身をかき混ぜていた料理人と話しつつマリーが何やらメモをとっており。ルーティはといえば、停泊している船の積み荷を暴こうとでも画策しているのか挙動不審な動きを見せ、それを見ているフィリアはおろおろしっ放しだ。

「あははは…りょーかい。電撃はリオンだけじゃない。私の専売特許って事、教えておくね」

さすがのクノンも、今の彼らのフリーダムっぷりには少々かちんと来るものがあった。そろそろ一度帯を絞め直してやる必要があるようだ。

――かくして、報告を終えたリオンが城から港へと再び戻ってくる頃には、少し肌の焦げた男女一組が地面にうつ伏せで痙攣し、二人を挟んだ褐色と色白の女性がそれを苦笑いしながら見つめている中、背の小さな少女が大声で説教をするという珍妙な光景が繰り広げられることとなった。


[*前へ][次へ#]

6/7ページ

[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!