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月へ唄う運命の唄
静寂の神殿と神官5

グレバムの面通しを行うという名目で、その顔を知る司祭のフィリアを仲間に加えストレイライズ神殿をあとにし、神の目を奪い持ち去った彼らを追うべくダリルシェイドへと引き返す復路の中。

「――…ところで、さ」

『あらクノン、どうかしたのかしら?』

「姫って、ソーディアンと違って本物の魂を刀に封入してるんだよね?区分としては、幽霊なの?それとも刀自体が人間の身体と同じように肉体としての器になってる…つまり、"刀として生きてる"の?」

『そうね…。私は、あくまで一度死んだ身よ。そしてこの"身体"はあくまで借り物にしか過ぎない。転生したわけじゃないわ。つまり、私は区分としては前者になるわね』

彼女と初めて意思の疎通が出来るようになってから早数年。これまでは気にならなかったわけではないが、なんとなく聞きそびれてしまっていたそれを神殿の中で僅かに語った彼女自身の事から改めて興味をひいたのだ。

「なるほど…じゃあもしかして、刀から抜けたら私にも姫の姿って見えたりするのかな?」

『そうね、見えるでしょうね。…でもそれは、私に幽体離脱しろと言ってるようなものよ?…出来るけれど』

「出来るの!?……ねぇ、『イ・ヤ・よ』…ケチ」

ぶう、と頬を膨らませて抗議するも無駄なようだ。きっと素敵な大人で美人さんなんだろうなぁ、と想像してしまうと、一目でもいいからこの目で直に見てみたいと思ってしまうのは当然の事だろう。

『私がどんな姿であるか想像するのは自由だけれど、私が一体いくつで死んだと思ってるのかしら?』

え、…うーん…いくつだろう。ソーディアンのみんなもそうだけど、姫もかなり古い霊みたいだしな。昔の人の平均寿命ってどのくらいだったっけ。あぁでも、話し方は落ち着いてるのに声は凄く若い、というか綺麗だし…お婆ちゃんぽくはないはず。

首を捻らせてうんうん唸っていると、くすくすとやたら楽しそうに笑う姫の口から衝撃の事実が明かされた。

『享年16。当時は数え年だったことを考えれば、今の貴女達の基準に直して15歳ね』

「『はぁああっ!?』」

直に会話していた私自身はもちろんのこと、密かに聞き耳を立てていたらしい声の聞こえる人達全員が驚きの叫び声を上げた。

『じ、15って本当ですか!?』

『なん…だと…!?』

「僕は年下の女に"坊や"呼ばわりされたのか」

「それ言ったらあたしなんて"小娘"呼ばわりよ!?」

『これは驚いたわね。その年にしてあれだけの知識、ルーティにも見習わせたいわ』

「ちょ!どういう意味よそれ!!」

「はぁー…俺、もっと年上のお姉さんかと思ってた。なんだか上品だし落ち着いてるし」

ショックを受けたり、感心したり、思わぬとばっちりに憤慨してみたり。みなそれぞれの反応を見せる。いつの間にか全員に囲まれてしまっていたクノンは、紫桜姫を柄だけの姿のままに召喚して皆の視線をそちらに逸らした。会話をするのに相手が見えないのはもどかしいだろうし、あんまり大勢の人に見つめられるのは得意じゃないのだ。

『ふふ…期待通りの反応で何よりね。知識などの面は別として、死んでからもう何百年もの月日が流れているのだもの。精神的にはもう大人どころの話じゃないし、性格だって多少は変わるわよ』

「……だ、そうだがどうなんだ?」

『え!?そこでなんで僕に振るんですか!?』

「別に。深い意味はない。…無駄話はこの辺にしておけ。お出迎えだ」

すらり、とシャルティエに向けていた冷たい視線を前方へと移動しつつ鞘から双剣を抜き放ち、隙なく構えを取るリオン。それを合図に意識を切り替えた面々はそれぞれに戦闘体勢に移行する。ストレイライズ神殿と街道を結ぶ、深いこの森を住処とするモンスターの群れだ。獰猛な殺意が四方から向けられ、囲まれているという事実が突きつけられる。

「ふん、たかだか数時間前に仲間が僕らに斬り捨てられているというのに、懲りない奴ら、だ!!」

ざん、と毒性の胞子を撒き散らしながら飛びかかってきたキノコ型のモンスターを真っ二つにし、脇から振るわれた猿型モンスターの拳を紙一重で躱すと同時、背後へとすり抜けつつ一刀の元に沈める。残像を利用した幻影刃である。


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