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月へ唄う運命の唄
静寂の神殿と神官4

「天にまします我らが神よ。森羅万象を司る我らが真理。暗き静寂の中よりいでし、暁の大海の守護者…我は命ずる。女神アタモニの名において、我らに道を示したまえ」

大聖堂に到着しアイルツが祈りを捧げると、聖堂奥にある隠し通路が姿を現した。どうやらこの通路の先に神の眼が安置されているらしい。クノン達は早速その通路へと足を踏み入れることにした。

「なっ、無い!?ここにあった神の眼が!」

『遅かったか……!』

恐らくは侵入者対策なのだろう封印の仕掛けが施されていたが、アイルツの案内もあって順調にそれを解除。クノン達は神の眼が安置されているという部屋に入る事に成功した。…だがしかし、そこに神の眼は無かった。驚愕に目を剥き頭を抱えるアイルツの横で、スタンの腰に提げられたディムロスが歯噛みするような声を漏らす。

「これが神の眼が置かれていた台座?こんなに大きかったなんて」

「うっ…」

『これは、…やはりとんでもない代物のようね』

背部の壁ごと破壊され、その形はほぼ失われてはいるものの台座の大きさに驚くルーティの横で、その力の残滓を読み取ったクノンは吐き気を覚え、思わずその場にぶちまけてしまいそうになるもなんとか堪える。

何これ。気持ち悪い…残り香だけでもとんでもなく強力なのがわかる。それになんだか酷く異質。レンズの力に似ているけど、その濃度が比べ物にならないくらい濃い。こんなもの持ち去って一体何をする気なの?

「スタン、何を見ている?」

と、ルーティと同じく台座を眺めていたマリーが、脇の方で何かを見つめているスタンに気が付くと、同じように観察を始める。…ってあれ、まさか!

「この石像、よくできてるなって」

「なるほど、確かに。こういうのを真の芸術と言うのかもな」

「恐怖と絶望の表情が、よく現れてるっていうんですか、思わず見とれちゃいましたよ。いやぁ、大したもんだ」

どう考えてもそこにあることが不自然な石像に感心する天然二人にこのおバカ!と突っ込もうとしたら、アイルツがフィリア!と悲鳴のような叫び声を上げた。それを受けて本物!?と軽く引きつつもパナシーアボトルの使用を促されたスタンが中身を石像に振りかけると、硬化していた肌や衣服が元の鮮やかな色を取り戻していき…やがて、線の細い色白の女性神官が姿を現した。若草色の髪と丸い眼鏡が印象的だ。

「アイルツ司教様…」

石化が解けて間もないこともあるだろう、しかしその疲労を凌ぐ深い絶望と苦しみの声が、未だに青紫に染まったままの小さな唇から弱々しく吐き出された。

そして彼女は語り出す。この場で起きた事その全てを。

――豊富な知識を持つ彼女はグレバムに命じられるまま、この部屋の封印を解いてしまう。そうして侵入を果たした彼らはこの部屋にあった神の眼を、彼女の同僚であるバティスタ等に命じて持ち出す準備を始める。突然の事に動揺するフィリア、そんな彼女へとグレバムは共に来いと誘うが、それを頑なに拒んだ彼女はグレバムが神の眼から生み出したモンスターにより石化させられてしまい今に至るという。
そこまで話して、彼女は不意にバランスを崩し倒れる。…その時のショックは、想像するに難くない。

「何処へ持ち去ったかわかるか」

リオンが訊くと、恐らくカルバレイスであろう、完全に石化する直前そう話しているのが聞こえたと返って来た。

「入れ違いになっちゃったかも知れないね」

「ああ。お前もそう思うか」

『どういう事です?』

『この付近であの台座に乗せる程巨大な荷物を運ぶための大型船が接岸出来る港があるのは、私達がやってきたダリルシェイドだけ。つまり、私達がここでこうしてる間に、相手は港に到着して出港の準備をしている可能性が高いという意味よ。…貴方、それでも元軍人でしょう?その程度の意味もわからないのかしら?』

私とエミリオが立てた予測を詳細にシャルへと説明した姫が呆れたような吐息を漏らす。ぐさりと容赦なく突き刺さる棘のある言葉に、シャルが落ち込んだ気配を放ち始めた。…最近思うけれど、もしかして姫ってば軽くS気質なんじゃないだろうか。

『そこまで言わなくてもいいじゃないですかぁ…』

『あら落ち込んだの?大丈夫よ、その分リオンはしっかりしてるようだから』

『う゛っ』

うふふ、と爽やかに楽し気な笑い声を漏らしながら放たれた言葉は、やはり容赦なく気弱な青年の何かに華麗なトドメの一撃を与えたようだった。


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