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月へ唄う運命の唄
静寂の神殿と神官3

ん?…そういえば、初めて姫を使った時にかなり重症だったはずの傷が、気付いたら動ける程度には治ってたっけ。もしかして、あの時嗅いだ香りが治癒術だったのかな。考えたら気力どうこうでどうにかなる状態じゃなかったし。

何度も何度も地を転がされ、何ヵ所も強かに打ち付けられた身体。致命傷にはならない程度に回避していたとはいえ、人外の力で傷つけられた身体は全身が悲鳴を上げ言うことを聞いてくれず、心が折れかけてしまっていた。それでも布都御魂を使い戦い抜けたのは紫桜姫のおかげだった。

…というか、

「さらりと憑依とか恐ろしい事言われたような…」

『心配する必要はないわ、それだけは"出来ない"から』

それまで軽い口調だった紫桜姫の声が、やけに真剣味を帯びたものに変わる。不思議に思うものの、今はそれより優先すべき事があった。どうやら扉の向こう側には生きた人が閉じ込められてしまっているらしく、スタンの呼び掛けにも応じる声があったのだ。

『"象徴"に使われている道具…"結界石"と言いかけたのかしら?その数はあれの周りに浮かぶ火の玉と同じ筈よ。そう遠くない…そうね、この建物の中にある筈だから探して破壊しなさい』

紫桜姫の指示に従い、神殿の中にある結界石を探す。近くにあるとはいえ広い神殿を探して回るのに少し手間取るかと思いきや、これまたご丁寧に当たりの部屋には番兵がわりに置いていったのだろう、モンスターが待ち構えていた。それらを難なく撃破し結界石を破壊、再び封印されていた扉に戻ると、無事閉じ込められていた人々を解放する事に成功した。

「大丈夫ですか、皆さん?俺達は王様の命令で来ました、もう大丈夫ですよ」

「おぉ、助かりました。私は当神殿の司教を務める、アイルツと言います」

「何が起こったのか、教えて貰える?」

扉を開いて真っ先に中へと入って行ったスタンへ、アイルツと名乗る眼鏡をかけた男性が自己紹介をし、ルーティの質問に状況を説明する。
それによればグレバムという大司祭が反乱を起こし、止めに入った大司教・マートンを手にかけたという。そして恐らくはこれ以上の犠牲を恐れたのだろう、アイルツ達はグレバムに投降し、閉じ込められた部屋に封印を施されていたらしい。

やっぱり、タイミングが良すぎる。推測でしかないけれど、多分グレバムの反乱にはヒューゴが一枚噛んでいるような気がする。グレバム自身がヒューゴと手を組んでいるのか、それとも知らずに誘導されているのかはわからないけど、この事件も全く無関係とは思えない。

と、一人考え込んでいれば、神の眼の安否を確認させろとエミリオがアイルツへと強引に詰め寄っていた。

「とと、待ってリオン!…アイルツさん、私達はその機密を守るために王より勅命を受けてやってきました。いわば私達も神の眼に関しては関係者なのです。どうか案内していただけませんでしょうか?」

「わかりました。ご案内致します。大聖堂までお進み下さい」

今にも剣をつきつけんばかりのエミリオを遮ってお願いしてみると、アイルツはまさに苦渋の決断といった表情を浮かべながらもなんとか承諾してくれた。

焦る気持ちはわかるけど、やり過ぎるとただの横暴になっちゃうよ。

「ち、始めから素直に案内すればいいものを。…っ!?何をするクノン!!」

「リ・オ・ン?権力を振りかざして脅すような人は、私嫌いだよ。…焦らないで」

小声で文句を言うエミリオの後頭部に軽くチョップ。痛くはないだろうけど鋭く睨んできた彼を半眼で睨み返しながら注意してやると、自覚があったのか彼は言葉を呑み込んでそっぽを向いた。

「言われなくてもわかっている。」

『しっかりなさい、お兄ちゃん?』

姫のからかいの声に返って来た返事は、少し苛立たしげに鳴る靴音だけだった。


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あきゅろす。
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