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月へ唄う運命の唄
早過ぎた手。5


抗議の意味を込めて睨んでやったら、何故か大笑いしながら背中をばしばし叩かれた。地味に痛いんですけど。

「あっはは、ごめんごめん。別に怒ってないし、からかい過ぎた事は謝るわ。二つ名を呼ばれた時のアンタの膨れっ面があんまり可愛いもんだからつい、さ」

「…可愛いっ!?」

可愛い、という単語に反応したのかぎゅん、と凄まじい勢いでマリーが食いついてくる。え、いや何?何この反応?

「クノンは小さくて可愛いが、何が可愛いんだ?」

「…確かにマリーに比べたら私は小さいけど。別に可愛くなんてないから」

「コ・レ♪」

今度はぽんぽんと頭を軽く叩きながらにやにやし始めるルーティ。コレって言うな。

「確かに、ちょっと拗ねた表情も可愛いな。私にも撫でさせてくれないか」

『ぷっ…くっくっくっ…クノン、貴女人気者ね』

「姫!何笑ってるの!?〜〜あーっもう!全然反省してないでしょルーティ!リオンのスイッチがなくても電撃くらいいつだって出せるんだからね!?」

「いいじゃない頭撫で…あががががががが!?」

さすがに我慢の限界が来た私が頭を撫でるルーティの手を振り払った瞬間、ばりばりと音を立てて彼女の体に電流が流れた。…私じゃない。

「五月蝿い!!遊びに行くんじゃないんだ、ぎゃあぎゃあ騒ぐな!!」

さすがにこの騒ぎを聞き流せなかったらしいエミリオが、お城でルーティ達に取り付けた囚人監視用の"可愛くてえげつない"ティアラ型装置のスイッチを押したらしい。これを開発したレイノルズって人のセンスはどうなってるんだろうか。

「クノン!お前もこんな馬鹿どもと馴れ合うな!馬鹿が伝染る!!」

そう言って手首を引っ張られた私は、少し強引にエミリオの隣で歩かされる。怒鳴ったきり、また無言で眉間に皺を寄せながら歩くエミリオにごめん、とだけ謝っておく。

『あら、嫉妬かしら?心配しなくても盗られはしないわよ?』

「黙れ、くだらん憶測で僕の感情を決めつけるな」

『あらそうなの?それは失礼したわね。…ただ、クノンの腕をしっかりと掴んだままのその手は何かしらと思ったものだから』

「〜〜、くだらん」

姫の指摘にはっとしたのだろう、私の手首を掴んだままの手を放したエミリオは、怒りからか耳まで真っ赤にしながら歩くペースを上げる。…お願いだからエミリオを煽らないで、姫。

そうしてまた暫く歩いていると、街の出入口を示すアーチが見えてきた。すると、何を思ったのかスタンが小走りに近づいて来ては爽やかな笑みでよろしくな、とエミリオに手を差し出して来た。

「……なんだ、この手は」

「握手」

訝しげに差し出された手を眺めていたエミリオに、事も無げに返すスタンは無邪気そのものといった感じだ。…少し、驚いた。物怖じしない人だなとは思っていたけど、ここまでとは思わなかった。これまでのエミリオの態度から決して友好的じゃない事はわかっている筈なのに、こうも簡単に踏み込んでこれる人は今まで見たことがなかったから。

でもね。

「勘違いするなよ。お前と僕が対等の立場だと思うな。僕はお前のように図々しくて、能天気で、馴れ馴れしい奴が大嫌いだ」

ほらね。

シャルを抜き切っ先を向けて構えるエミリオはスタンの手を拒否してしまった。文字通り空振りした手を差し出したまま、少しだけ悲しげに表情を歪めるスタンを見ていられなくて、エミリオの代わりに私がその手を取ることにした。

「よろしくね、スタン。今は駄目だったけど、良かったらまたいつか手を差し出してくれたら嬉しいな」

「…っ、あ、あぁ、よろしく、クノン」

「……ち、神殿はダリルシェイドの北にある。まずは近くにあるアルメイダの村を目指すぞ」

握手を交わす私達を横目に、再び先を歩き出したエミリオの背中にはハッキリと戸惑いが見て取れた。

…もしかしたら、この純粋で真っ直ぐなスタンなら。エミリオの鎖を解くきっかけになってくれるかも知れない。勿論、肉親であるルーティも。…こっちは性格的にちょっと難しいかも知れないけど。それでも、もしかしたらって思える。この二人とエミリオが仲良くなれたなら、きっと良い方向に変われるかも知れないと思えた。

2013/03/20
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あきゅろす。
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