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月へ唄う運命の唄
早過ぎた手。3

翌日。
昼過ぎになって広間に呼び出された私は、あまり顔を合わせたくはない人物とともに気まずい雰囲気の中に居た。

いつもなんだかんだで屋敷に居ない癖に、唐突に呼び出してくれるんだから……。

クノンを呼び出したのはこの屋敷の主人であるヒューゴであった。……否、正確にはヒューゴの肉体を奪った"何者か"であるが。彼は上座の椅子に腰掛け、厳めしい顔をクノンに向けて様子を伺っているようだ。その脇では布にくるまれた二振りの剣を抱えたマリアンが控えている。

「クノンよ」

目を合わせないように離れた位置に腰掛けていたクノンはびくり、と肩を震わせた。

「そう緊張する必要はない。呼び出した要件は後程説明するが…なに、要は任務の依頼だ。何も"心配する必要はない"」

「……はい」

今すぐここで何かをするつもりはない、って事ね。それは言われなくても想像はついてる。けど、マリアンが持っているのは多分ディムロスとアトワイトだし…やっぱり何をするつもりなのかが見えない。マスターである彼らは牢獄の中の筈だし。というか、何故ここにあるの。ソーディアンは王国管理のものの筈なのに。

幾つかの疑問に頭を悩ませていると、軽いノックの音が静かな広間に響いた。

「入りなさい」

ヒューゴが促すと、姿を現したのはエミリオだった。…いや、それだけじゃない。その後ろからは牢獄に居る筈のスタン達三人の姿もあった。

どういう、事?それにしても朝からエミリオの姿が見えないと思ったら、彼らを迎えに行っていたからだったんだ…。

「立ち話も疲れるだろう、まずは好きに掛けるが良い」

全員が入室したことを確認したヒューゴが勧めるままに各々席につく。私の隣に座ったエミリオの表情がやけに固い。

「マリアン、例の物を」

ヒューゴに促されたマリアンが布をとき、テーブルの上に二振りのソーディアンを置く。中身は予想通りにディムロスとアトワイトであった。

『来るのが遅い!何をぐずぐずしていた!』

『ディムロス少し落ち着いて。みんなは事情を知らないのだから』

姿を見せるなり大声で怒鳴り散らすディムロスをアトワイトが宥める。事情?

目でエミリオに問いかけるが、彼も詳しくは把握していないのか微かに首を振るのみ。…と、ヒューゴが口を開いた。

「文献によればソーディアンは全部で六本作られたという。…その内の半分がここに揃った。考えてみれば凄い事だな」

まるでその半分を自らの手中に収めた、とでもいうような口ぶりに怖気が走る。言葉通りに受け取れば確かにそうだけど、裏の顔を知る私からしたら恐ろしく感じてしまう。一本でも強力なそれを三つ。どうする気なんだろう。
密かに戦慄する私を尻目に、ヒューゴは本題に入ろうと一つ前置きしてそれを口にした。

「王都ダリルシェイドの北にある、ストレイライズ神殿に向かって欲しい」

その言葉を受けてスタンがそこにある"神の眼"の無事を確認し、そうでなければ取り戻すんですよね、と引き継ぐ。重大な任務だと緊張を顕にするディムロスが、やけに焦っているように思える。

"神の眼"。

この世界で千年前に起きた大戦の元凶となった災厄。その程度の知識はあるけど、実際にはどんなものであるかまでは私の読んだ文献には記されていなかった。…が、大戦の当事者であったディムロスが焦る程の物だ、ロクでもない物なんだろう事は容易に想像出来る。
考え込む私の脇でルーティが何やら駄々を捏ねていたみたいだけど、25万ガルドでアッサリ買収されていた。…アトワイトに同意。ほんと、変な意味で逞しいヒト。

「――結果を、出してくれたまえ。そしてクノンよ、話はこの通りだ。君にもリオンとともに彼らに同行し、任務を手伝って貰いたい。良いな?」

「かしこまりました、仰せのままに。……っ!!」

席を立ち礼をする私を横目に、微かに口元に笑みを浮かべたのを私は見逃さなかった。

"これ"が"それ"か!!

つまり、この任務は仕組まれたもの。やはり三本のソーディアンを…三人のソーディアンマスターを手駒に"計画"とやらを推し進める気なんだ。そしてこの流れはやっぱり一筋縄では止められない。私をこの任務に組み込む事で動きを縛ってしまえば、少なくとも任務中は自分達の邪魔は出来なくなる。それに、私を戦力としてあてがう事で任務に確実性を与えられるという大義名分が立つ。より自然に厄介払いが出来る。


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