[携帯モード] [URL送信]

月へ唄う運命の唄
ただいま、おかえり7

「どうした、この程度か」

相手を見下したような台詞で挑発していくリオンに、釣られて反撃に出るスタンとそれを援護する形でマリーも飛び込んでいく。都合が良すぎて怖いくらいに"釘付け"だ。

さすがエミリオ。なら私は。

数歩分距離を開けて援護晶術を放とうとしているルーティの正面にあえて飛び込み、弓を引く。しまったと言わんばかりに顔をひきつらせたルーティの視線の先で、指先から迸る電光が弓矢を形作っていく。限界まで弦が張り詰めた瞬間、音速を越える速度で解き放たれた紫電の矢がルーティの頬を掠め一筋の朱を刻む。
死を感じたのであろう、わざと外した紫電弓の脅威に硬直した隙を突いて、瞬間強化した脚による超高速で懐に飛び込み、その顎に柄を叩き込んで脳震盪を誘発させる。狙い通りにその綺麗な足から力が抜け、崩れ落ちたルーティの体を抱き留める。

「ごめんね、これもお仕事だから。下手に手加減出来ないから、少し荒っぽくなっちゃったけど」

その場に横たえ、腕を後ろ手に縛りアトワイトを奪う。

『……見事な腕ね。私まで一瞬肝を冷やしたわ。クノン、あなた実力を隠してたわね』

「そりゃ、さすがに出会って間もない人に手札を全て見せる程、私もお人好しじゃないもん」

ルーティ達と合流してからは、身体能力面での強化は行っていなかった。剣を振るうよりも術での細かい援護を強いられていたのをいい事に、並の一般少女と同程度…素の運動能力しか見せていなかったのである。
そこへ布石を打った上での、その落差を全力で利用した一撃には反応など出来る筈もなく。ルーティは何もさせて貰えないまま、ほぼ無傷で捕縛されてしまったのだ。

「じゃ、私はリオンの手伝いに行くから、ルーティをよろしくね」

アトワイトを側に居た一般兵に託して走り出す。
その先では、スタンとマリーの猛攻を平然と受け流し、時間稼ぎに徹するエミリオの姿があった。

「お待たせ!リオン、一人沈めたよ」

「遅い!…だが上出来だ。これで小うるさい支援と口は断ち切った」

「ルーティ!?くそ、こんのぉお!」

倒れたルーティの姿を視界に捉えたスタンは、激昂し私に向かって飛び掛かってきた。その身長差、体重差を利用して一撃で叩き伏せるために。…けれど、そんな大振りの一撃を貰うような案山子じゃないよ、私は。

上段から真下へと向かって振り下ろされるディムロスに、直角になるよう水平に構えた紫桜姫の刀身に敢えてぶつけさせる事でその勢いを吸収する。無論剣筋を見切って体のみかわした上で。そしてぶつけられた勢いを殺さずに、むしろ自らの力をも加えて回転のエネルギーを作り出すと、その場で小さく水車のように空中で側転する。
そしてスタン自身の力と、クノンの力、さらに回転による遠心力を加えた莫大な力が、ディムロスを振り切った事で俯くような姿勢になったままのがら空きのスタンの後頭部で大爆発を起こす。

「ごっ…!?」

次の瞬間には、スタンの顔は地面に浅くめり込む形で見えなくなってしまっていた。

「…紫桜流、跳式ノ三・斬禍。ほんとはコレ、あのまま柄で殴らずに後ろから首を斬り落とす技なんだけどね」

『聞こえていないだろうが優しい敵で命拾いしたな、スタン。…やれやれ、敵に回すと恐ろしい娘だ』

呆れたような、感心したようなディムロスの声に苦笑いしていると、エミリオもマリーを倒したらしくシャルを鞘に収めているところだった。見ればマリーもほぼ無傷のままで気を失っている。さすがエミリオ。

「そちらも終わったか。…ふん、手応えのない馬鹿どもが。こいつらをダリルシェイドに連行しろ」

離れた位置で戦いを見守っていた一般兵達に命令を飛ばす。気を失っている三人に改めて縄をかけ、檻車に放り投げていく。ディムロスとアトワイトは、私が一時的に預かる事にした。

「ふう、これでやっとお家に帰れる。早くお風呂入って休みたいよ」

「任務ご苦労だったな。…と言いたいが、まずはあいつらをダリルシェイドの牢に入れて事後処理の後、これまでの報告書を書いて提出だ。覚悟しておけ」

「…えぇ…。ねぇリオン、てつ」

「手伝ってやる暇はない。僕には僕の仕事もある」

「…だよね…」

冷たく突き放されるエミリオの言葉に、がっくりと肩が落ちるのを自覚する。まぁ、愚痴を言ってもこればかりは仕方がない。客員剣士である以上、任務である以上はしっかりと最後まで務めを果たさなければ。

「とはいえ、お前にしてはよくやった。とりあえず、誉めておいてやる」

そう言ってエミリオは、明後日の方向を向いたまま私の頭に手を置くと、そのまま労うようにぽんぽんと撫で叩いてくれた。その優しい力加減に、ほんのりと胸が暖かくなる。

…そういう不意打ち、ちょっと狡いと思うよ。

誤魔化しようもなく熱を持ち始める頬を見られたくなくて、私も彼と同じように視線をずらしたまま、小さく「ありがと」とだけ呟いた。

next....
2013/01/20


[*前へ]

7/7ページ

[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!