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月へ唄う運命の唄
ただいま、おかえり6

太陽が完全に昇り、夜が明けて暫く経った頃、突然助けを求めるような男性の声が響き渡った。その者特有の聴覚を通さない声に苦笑いが浮かんでしまう。

「まったく、やっぱりやらかしたんだ、ルーティってば」

大方寝起きの非常に悪いスタンの隙を突いてディムロスを奪おうとしたんだろうけど、逃げられないよ。表も裏も、私達が包囲してるんだから。

スタンの部屋のちょうど真上、宿の屋根で隠れて待ち伏せしていた私は、表口で一時的に隊を率いるゼドに合図を送る。因みにエミリオは裏口を見張っており、もしそちらから抜けようとするならば私は屋根から飛び降りて参戦する手はずになっている。
だが、包囲に気付いて慌てて飛び出してきたのは、表口だった。一般兵しかいないのならば、強引にでも押し通せるとでも踏んだのだろう。…さて、ゼド達のお手並み拝見といこうかな。と、その前に一応。

《エミリオ、彼らは表口に現れたよ。ソーディアンで正面突破する気みたい》

《馬鹿正直な奴らだ…わかった。ゼド達が突破されそうなら、お前も出ろ。僕も今からそちらに向かう》

《了解》

式を閉じて、その戦闘を見守る。…相変わらずスタンとマリーは猪突猛進。さすがにサーチガルドしてる場合じゃないルーティは中衛で晶術の援護、かぁ。やれば出来る癖に、私が居る事でサボってたな。

思い出すとふつふつと怒りが沸いてくる。ルーティのせいでどれだけ私が苦労したか……!

対してゼド達の方は……あらら。やっぱり、押され気味かな。私やエミリオを訓練相手に経験を積んだゼドが居るとはいえ、術を使う相手に対しては連携に難があるみたい。このままじゃ突破されるのは時間の問題かな。しょうがない、出ますか。

「よっ……と。や、スタン、ルーティ、マリー」

屋根から飛び降り、三人の前に立った私を見て、スタン達は喜びの声を上げる。けれどそんな三人に対して、私は腰から姫を抜き、布都御魂の切っ先を向ける。

「クノン!あんた一体どういうつもり!?」

明らかに敵対する意志を見せて構えた私を見たルーティは、酷く憤慨した様子で怒鳴り散らしてくる。

「どういうもこういうも…スタンは忘れてるみたいだけど、ルーティは気付いていたんでしょ?私がセインガルドの客員剣士で、飛行竜での責任者だったって事。そしてあなた達が敵対している兵士達は私の仲間。さらに、あなた達の罪状は神殿での盗掘行為、及び飛行竜への不法侵入。私は、私の仕事をするだけだよ」

「……そういう事だ。しかし無様なものだな。僕もこれ以上見てはおれん」

そう言って姿を現したのは、漆黒の髪に、幼さを残しながらも男とも女ともとれる中性的な整った顔、今は鋭い殺気を放つ、美しい紫水晶の瞳が印象的な少年剣士・リオン=マグナス。セインガルドが誇る王国客員剣士として、彼はそこに凛然と立つ。

「そこをどけ、ゼド。ここは僕とクノンが相手をする。……事情も知らずに正義の味方を気取る。お前、どこの馬鹿だ」

三人の先頭に立ちルーティ達の無実を訴えていたスタンへと冷たく言い放つ。その手には、銀色の装飾剣、ソーディアン・シャルティエが握られていた。馬鹿じゃないと憤慨するスタンの脇で、その存在に気付いたらしいルーティがまさか、と息を呑む。そしてディムロス、アトワイトの二人は確信を持ってシャルティエを呼ぶが、彼はどうやら気まずいらしく、無言で苦笑いするような気配を放つのみ。

「やっぱり、まさかまたソーディアンが出てくるなんてね」

そう言ったルーティに、尚一層冷たく厳しい視線をちらりと向けつつ、エミリオ…いや、リオン=マグナスは身分を明らかにし、構えを取る。

「ソーディアンが二本あるとは好都合、まとめて持ち帰ってやる。ふっ、腕ずくというのも悪くない。ソーディアン同士が戦うとどうなるか、一度試してみたかった」

その言葉を皮切りに、素早い動きで三人の懐へと飛び込んだリオンの剣が閃く。辛うじて反応したスタンがこれを防ぐも、それをまるで意に介さず恐るべき速度で連撃を叩き込んでいく。


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あきゅろす。
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