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月へ唄う運命の唄
ただいま、おかえり5

《エミリオ、聞こえる?ちょっと報告したい事があるんだけど》

宿で言い付け通りに二部屋取り、その内の片方で一息ついた私は、早速エミリオへの通信巫術を起動してルーティ達の事を報告する。

《まったく面倒な…だがまぁいい。今僕の方にも捕縛の命令が届いた。依頼者の名はウォルト。どうやら、その連中は間抜けな事に見事に一杯喰わされたらしいな》

《あはは…ま、しょうがないね。これが私達のお仕事だし。いつ頃到着出来そう?》

《今晩中に部隊を編成し、出発出来れば明日の朝には到着する。相手がソーディアンマスターならば、メインは僕とお前になるだろう。連れていく奴らも最低限で済む》

《そっか、じゃあ私は一晩様子見しながら足止めしておくね》

《頼んだぞ、蒼羽》

了解、と返事して式を閉じる。やっぱり、彼に名前を呼ばれると嬉しい。それだけで疲れが癒される気がする。明日はただいまお兄ちゃん、って言ってみようかな。

なんとなく、そんな悪戯を思い付く。そう呼ばれた彼がどんな反応をしてくれるのか、今から楽しみで仕方ない。少しだけ高揚する気持ちに乗せられて、私は気分も軽やかに早めの床に就くのだった。

――その夜、ウォルトの屋敷にて宴会を催した際、すっかり潰れてしまったスタンとマリーが宿まで運ばれてきた。何をやってるんだかと呆れながらも、夜風を浴びてくるねとだけ言いおいて宿を抜け出した私は、村外れの木に背中を預けて座り込んだ。彼らが戻って来るまでにたっぷり仮眠を取ってシャワーも浴びたので、此処で夜を明かしても問題はない。

夜明けに差し掛かった頃、地平からほんの僅かに顔を出し始めた太陽の光を浴びて、村の入り口の向こうから人影が多数姿を現した。それを見た私は、一目散に走り出す。

「ただいま、お兄ちゃん!」

「誰がお兄ちゃんだ!!」

隊を率いて先頭を歩いていたエミリオに飛び付く。口では怒りながらも、振りほどこうとはせずに受け入れてくれる。

「まったく、久しぶりに顔を見たと思えば第一声がそれか。呆れて怒る気すら起きん」

あぁ、エミリオの声だ。エミリオの温もりだ。……こんなに長いこと顔を合わせなかったのは、この世界に来て彼と会って以来初めてかも知れない。そのせいか、こうしているだけで酷く安心する。やっぱり、会える家族が居るっていい。

「あ〜、ゴホン。クノン様、ご無事で何よりです。その、愛情表現は結構ですが…皆の目もありますので程々にしていただければ」

「!!」

咳払いをする兵士の声に、慌てて顔を埋めていたエミリオの胸から離れる。しまった。一小隊居るんだった。わぁどうしよう、顔がものすっごい熱い。

「ご、ごめんなさい。久しぶり過ぎてつい」

「相変わらず仲がよろしいようで何よりです」

苦笑する兵の顔を見れば、先程から話しかけてきていたのはあのゼドだった。数年前のフィンレイ将軍暗殺事件の折、私達とともに誘拐犯達のアジトへと突入した兵の一人。彼とは初任務以来、ちょくちょく顔を合わせるようになっていた。
なんでも、自分含めた仲間達の転機のきっかけとなった私とエミリオの側で手伝いをしたい、と希望しているそうで、他の兵達に比べ少々付き合いは深い。そんな彼は今や立派な上級兵になっており、今回もなんだかんだで編成に加わっていたようだ。

「しかし、そのお姿でハグなどされていては、リオン様とはご家族同然の仲とはいえ、いらぬ誤解が生まれますよ」

「う…き、キヲツケマス」

その姿で、というのは今の私の服装が、本来の女性らしいものだからだろう。なんせゼドと出会った頃の私は、事情があって男装していたのだから。…いや、よく考えたら男装の状態でのハグの方が危険な誤解が生まれる気がするんだけど。かなり不健全な方向で。

「無駄話はそこまでにしておけ。それでクノン、奴らの様子は?」

「大丈夫。ウォルトさんの屋敷で宴会してたみたいで、今は潰れてぐっすりだよ」

「そうか。つくづく間抜けな連中でこちらも仕事が楽だ。その程度の意識でソーディアンマスターとは笑わせる」

否定はしないけど、またいつもより随分と辛口な気がするのは気のせい?

とにかく、エミリオが率いてきた小隊に私も加わり、改めて到着の報告をすべくウォルトさんの屋敷へと向かうことにした。


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