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月へ唄う運命の唄
ただいま、おかえり4

それからまた一晩明けて、ルーティ達との出会いから翌日、関所からスタンの通行証が出来たとの連絡が入った私達は、改めてセインガルドへの入国を果たした。関所を通過する時に、なんだか妙な芸人集団(本人達はレンズハンターだと自称していたが)と遭遇したが、通行証を持っていなかった彼らは当然の如く追い返されていた。…あんな面倒くさそうな人達の相手までしなければならないなんて、門番も大変な仕事だなと思う。

そうして寒風吹き荒ぶ国境の雪山を越え、ようやく気候の温暖なセインガルドへ入ったのは正午を少し回った頃だった。途中途中で出会うモンスターとの戦いの中、スタンとマリーは特攻隊長よろしく敵中へとただ突っ走る。マリーなんか嬉しそうに笑いながら戦斧をぶんぶん振り回してる…ちょっとその姿が怖いけど、それはまだいい方。私がサポートに回って術で中距離援護しフォローしてあげれば済むのだから。

だが、ルーティが非常に厄介…というか大問題だった。何せ彼女はスタンとマリーが猛然と暴れ回る中で、敵を目の前にして突然しゃがみこんだかと思うと、「お金お金…見つけた!」と小銭を拾ってはしゃぎ出すのだ。慌てて盾になろうと走り出せば、拾ったお金の汚れを拭う片手間に晶術で手軽に迎撃している。
非常に危なっかしい事この上ない。というか、お金を探す片手間に戦闘ってどうなの。お願いだから戦闘中はそれだけに集中してよ。いや本当に真剣にお願い。おかげさまで普段の軽く10倍は神経が磨り減っている。
そんなわけでハーメンツへと辿り着いた頃には、自分でもはっきり自覚出来るくらいに私はげっそりしていた。

「ふい〜、やっと着いた。…あのクノン、大丈夫?」

とうとうスタンにまで心配される始末。いいよね、あなたは気楽で。

「泣いてもいいなら、私、今本気で泣きそう」

『ほらほら、弱音を吐かないの。漸く無事に到着したんだから、宿までは我慢なさい』

うう、姫が厳しい。…あ、ちょっとウルっと来た。我慢、我慢。

「ここがハーメンツの村よ、しけてるでしょ」

「そうかなぁ…栄えてるように見えるけど。大きな家もあるし」

肩を竦めて苦笑いしながら紹介するルーティに、どこと比べているのかそう返したスタン。どこの田舎から出てきたの、というルーティの感想には同意出来る。ダリルシェイドと比べてしまうと、やはり見劣りしてしまうのは否めない。けれど、こういう長閑な雰囲気も嫌いじゃない。

「田舎じゃない、フィッツガルドのリーネ村だよ!空気は美味いし、人は親切だし、いいところだぞ?」

おもいっきりド田舎じゃないの、というツッコミは別にいいけど、今何て言った?…"飛行竜から見た"?…もしかしてあの時リンゴを投げてきた侵入者の二人組って、ルーティとマリーだったの?なんていうか世間は狭いなぁ。これは後でエミリオにも連絡入れておかないと。隊を組んで来て貰わなきゃ。

そんな風に考えていると、村人らしいふくよかな女性が声をかけてきた。旅人が珍しいらしく最初は歓迎的な態度だったのだが、ルーティがウォルトという名前を出した途端に嫌悪感を露にし、そっけなく案内をした後そそくさと離れて行ってしまった。

「今のでウォルトって奴がどんな奴なのかは想像がついたわ。…まぁいいわ、あの一番大きな屋敷に行きましょ」

「ちょっと待って、私、限界。先に宿を取って部屋で休んでてもいい?」

村の奥に聳える立派な屋敷を指差して歩き出そうとするルーティに、待ったをかける。彼女の用事に興味はないし、少し疲れてるのは事実だけど…その間にエミリオに報告を入れようと思ったからだ。流れ次第では、私まで盗掘者の汚名が着せられかねないとも思ったからでもあるけど。

「仕方ないわね。じゃあいいわ。部屋は二つ取っておいて。費用は"交渉しておく"から」

「ありがと」

はて…交渉?なんだか嫌な予感がする。やっぱり着いて行って見張るべきかな?

そうこうしてる内に、ルーティはマリーとスタンを伴って足早に屋敷へと向かって行ってしまった。まぁいいか、と流すことにして私も宿へと足を向けることにした。


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あきゅろす。
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