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月へ唄う運命の唄
ただいま、おかえり3

そうとは思いながらも、長時間に渡り無断で待たされた仕返しに少しだけからかってみる事にした。

「でスタン。どっちが本命なの?あの手を振ってる格好いい人?それとも隣でお金数えてる綺麗な人?」

「ちょっ!?ちちち違うって!!そんなんじゃないから!」

半目で蔑むように言ってやれば、案の定予想通りに慌てて否定するスタン。…まぁこんなところで許しておいてあげるか。

「おーいこっちだ、スタン」

「今行くよ!」

酒場の入り口で立ち止まっている私達に焦れたのか、手を振っている方の人が大声で呼んで来た。なかなか凛々しい、いい声だ。
そうして二人で待ち合わせた女性二人と同じテーブルに着く。早速寄ってきたウェイターに二人分の飲み物を注文して、すぐに届けられた飲み物に口をつける。無論、お酒ではない。
赤髪の人はともかく、やっぱり黒髪の人の方はなんとなくどこかで見覚えがある気がして仕方がない。こんな綺麗な人なら、そうそう忘れないと思うんだけど。

「待ちくたびれちゃったわよ〜。で、その子がスタンの言ってた紹介したい人?…何?彼女?」

「ちょっ!?だから違うって!!この人はクノン。ダリルシェイドに住んでるらしくて、一緒に行くことになっただけだから」

「どうも、クノンと言います。…それと、こんな能天気彼氏は正直勘弁して欲しいです」

「えぇっ!?」

そんなんじゃないのはわかってるけど酷いよ!というスタンの叫びは無視。

「あっはは、そうなんだ。私はルーティ。で、そこのぼけっとしてるのがマリー」

よろしく、ルーティと互いに会釈を交わす。隣を見れば確かに、どこかぼうっとしてるようにも見える。…というより、私達が席に着くなりお酒を飲む事に没頭していて話を聞いてない。マイペースな人みたいだ。

『聞いてないみたいよ?ルーティ』

唐突に女の人の声がした。それも普通の聞こえ方じゃない。女の人の声だけど、姫や目の前の二人じゃない。これは、もしかして。

「あの、もしかしてあなたもソーディアンを?」

「あれ、あんたも聞こえるクチ?誰かのマスターなわけ?」

と言いながらテーブルの脇に立て掛けてあった身幅の狭い、先端が緩く湾曲した剣を見せてくれる。アトワイトというらしいその剣は、どうやら女性が扱う事を前提に造られているらしく、コアクリスタルという共通項を除いてシャルやディムロスとも違う少々短めで軽さ重視の設計だった。

「いえ、私はマスターじゃないです。ただ、そういう体質なだけで。私の武器はこれです」

今度は私が姫を柄だけの姿で取り出して見せてみる。すると、ほんの一瞬ルーティが眉をひそめるのが見て取れた。…が、すぐに表情を元に戻してそれは?と問われる。

『初めまして、お嬢さん。私は紫桜姫。ソーディアンとは似て非なる者よ』

そんな姫の声に驚いたのはルーティとアトワイトの二人。スタンやディムロスの時よりも簡単な説明だけしてやると、そんな物があるのね、としきりに感心していた。…かと思うと、次の瞬間には信じがたい発言が飛び出した。

「ねぇスタン、それにクノン。あんた達の剣、譲ってくれない?」

「…は?」

これにはさすがに驚いて、スタンも私も声を揃えて呆然としてしまった。何故、と問うと骨董品として売り飛ばすとか宣い出すルーティにさらに唖然としてしまう。

『骨董…!』

『…呪われたいのかしら、この小娘』

ディムロスと姫は違うところに反応したみたいだけど。あと姫、あなたが言うと本気で洒落にならないから。魂そのものなだけに怖いって。

ともかく、さすがにそんな事は許せる筈がないのでスタンとともに丁重にお断りさせてもらうと、今度はダリルシェイド付近の村・ハーメンツまでの護衛をお願いしてきた。なんというか、諦めの悪い。どうせ私達の隙を見て奪おうという魂胆でしょうけど、そうは問屋が卸さない。そもそも、姫は普段私と融合してるから物理的に不可能だし、第一並外れた戦闘力である筈のソーディアンマスターに護衛なんて必要なわけがないのだから。
そんな警戒心剥き出しな私と違って、純粋で騙されやすいスタンの方はルーティのお世辞に乗せられてやる気満々。トントン拍子に話が進んでしまい、まんまとハーメンツへの寄り道が決定してしまった。ただでさえあんまり遅くなるとエミリオに怒られそうなのに、もう。


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あきゅろす。
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