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月へ唄う運命の唄
山小屋の出会い8

それにしても、と少々意識を切り替える。

この道中、何度か行く手を阻むモンスターとの戦闘があったがウッドロウが居るだけで非常に楽であった。どちらかといえば猪突猛進突貫型のスタンとは違い、上手く支援してくれる。弓による遠・中距離での牽制により穴が綺麗に埋まっていくのだ。その射撃も非常に高精度で、見事な一級品といってもいい。
クノンも弓矢型の巫術を使うが、こちらは巫術により生み出される圧倒的な速度を以て、相手に動かれる前に強引に当てに行く手法。対してウッドロウのそれは、洗練された技術により相手の動きを先読みした上で、正確にその先へ射撃し当てていく。純粋な武道として昇華された弓術には、比べるべくもない。
正直、ウッドロウの前では紫電弓は使いたくないな、とクノンに思わせる程度には確かな腕を持っていた。

いつか機会があったら教えて貰おうかな。そうそうそんな機会があるとは思えないけど。

そして日が傾きかけてきた頃、順調に歩き続けた三人はジェノスへと辿り着いた。此処からは、ウッドロウとは別れ二人でセインガルドへと渡ることになる。

「ありがとうございました、ウッドロウさん」

「いや構わないよ。私も同じ方角に用事があったから同行させて貰った。それだけだからね」

向き合い礼を述べるスタンにそう言って彼は笑う。本当に、よく出来た人。比較対象がスタンじゃ仕方ないかも知れないけれど、大人の余裕に溢れている。……そうだ。

「あの、これ」

山道で借りて以来、ずっと羽織らせて貰っていたマントを指して訊ねてみる。常識で考えれば洗って返すか新品を贈るのが当たり前だが、何せ国を越える必要がある。……いや、その程度は全く問題ではない。その相手が王族だというのが問題だ。下手な対応をして礼を失してしまいたくはない。

「それも構わない。着古した物で私としては申し訳ないのだが、もし君がよければそのまま贈らせて欲しい。ここからまた一度雪山を越えなければならないだろうからね」

「本当に、重ね重ねありがとうございます。このご恩は決して忘れません。いつかお返しさせて下さい」

「ふふ。……では縁があったらまた会おう」

そう言い残し、ウッドロウはセインガルド方面とは別の方角へと歩き去って行ってしまった。徹頭徹尾、紳士的な対応を怠らない人だった。私も剣だけじゃなくて、少しは淑女的な振る舞いを覚えるべきかな。

『そうね。貴女も年頃なのだから、そういうことも覚えなさい』

融合してるし思考を読むのは自由だけど、ちょっとそのツッコミは耳が痛いよ、姫。

『あの者、もしや我の存在に気付いていたのでは……?』

姫の一言に辟易していると、そんなディムロスの今更な独り言が聞こえてきた。私から教えてあげてもいいけど、別に口を挟むことでもないしいいかな。

「さてスタン、私達もそろそろ関所に行くよ。通行証も発行して貰わなきゃだし」

「へ?通行証?」

「あのさ、天然も程々にしてよ、ほんと。何のために国境があって、それを管理する関所があるのさ。とにかく、行くよ」

もはやお約束となったスタンのぼけっぷりに呆れながらも、関所を目指し歩き始める。そうしてそこでの手続きの際、取り敢えず身分の確かな"客員剣士"という肩書きのある私は、身分証もあって発行には時間はかからなかった。
しかし、元が密航者な上に身分証も持っていなかったスタンはそうはいかなかった。一応の確認の為彼の出身を聞き出し、出身地へと問い合わせ身分を照合した後に発行手続きを行う事になる為、二・三日かかってしまうとの事。
ここはあまり強引に事を進めても仕方がない為、私達はジェノスで数日間滞在する事にした。
そうしてその間にまた、私達に新しい出会いがある事など、その時は知る由もなく。

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2013/01/17

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あきゅろす。
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