[通常モード] [URL送信]

Short Novels(D-Side)
最後の後始末

さて、ひとまずはこれで安心、ね。

荒くなっていた呼吸も落ち着き、今は穏やかに眠る彼女を感じて安堵する。

…それにしても、先程の映像。あれはどう見ても――

《…ったく、なっさけねぇツラして泣きじゃくりやがって。これじゃ忠告してやった意味がねぇじゃねぇかよ》

思考に邪魔が入った。声がした方を見れば、先程まで敵対していた男の亡骸を抱えて涙を流す少女の背後で、困ったようにその背中を見守る者が視えた。

…あれは…どうしたものかしら、ね。
あのまま放っておくには少々不安が残るけれど…。

端的に言えば、彼は汚染されていた。魂に不純物が入り込み、半ば同化するようにして穢れてしまっている。恐らく、何かしら手を打たねば霊体のまま今度こそ自我を持たぬ化け物として組み変わってしまうだろう。そうなれば、ただでさえあの戦闘力だ。今の彼女達には少々荷が重い相手となる事は容易に予測出来た。

…それでも私自身が戦えれば、ものの数秒程度で瞬殺できるでしょうけれど…それも肉体があれば、の話になるし。仕方ない。今の内ならば、まだ僅かな消耗で対処出来る。あまり長く外に居ると"管理者"に見付かる可能性があるけれど、異界のこの地なら恐らく多少の猶予はあるでしょうし手早く浄化して成仏させてしまいましょうか。

そう考えた私は、まずはと彼女をリオンから預かったルーティへと話し掛ける事にした。

『ルーティ、それにアトワイトさん。ちょっといいかしら?』

「ん、何?」

『珍しいわね、どうしたのかしら』

『今から、少し長い間用事で"器"を留守にするわ。その間私の刀としての部分…柄はクノンから分離してしまう。だから預かっていて欲しいの』

「はい?」

『…わかったわ。ルーティ、クノンの身体から紫桜姫さんの柄が出てくるから、大切に預かりなさい。彼女の"身体"なのだから落としたりして傷付けちゃ駄目よ』

「う、うん」

すぐには飲み込めなかったルーティに代わり、アトワイトさんが理解してくれたようだ。さすが、といったところかも知れない。

『ではお願いね』

そう言って私は器から離脱し、久しぶりに霊体に戻る。ノイシュタットの時のような一瞬の間なら問題はないのだが、長時間空けるとなるとクノンの身体にどんな影響が出るのかわからない為、一度分離させる必要があった。
クノンから分離した器は無事ルーティの手に収まり、彼女はそれを柔らかな布で包んでから懐に仕舞う。それを確認すると、未だフィリアの背後でその背を見守る男の霊に声をかけた。

《さて、バティスタ、といったかしら?貴方に少しお話があるのだけれど》

《ああ?…なんだお前?いつから此処に居やがる?》

《初めから。貴方が使って欲しがっていたクノンの光る刀…私が紫桜姫よ》

《はあ?そこでぶっ倒れてる甘ちゃんの刀がテメェだと?つぅか話し掛けてくるって事ぁ俺が見えてんのかよ》

《見えるも何も、私も貴方も"死んだ人間同士"、当たり前でしょう?まぁ例外的にクノンも見える子だけれど、ね》

そいつは凄ぇ、と半ば理解を放棄したような態度でこちらへと向き直る彼。…まぁ、理解しなくてもコミュニケーションが取れれば問題はないのだけど。

《で?自称刀の小娘は俺に何のご用事で?》

…………こ、こむすめ…………

いや、わかってはいるのだ。事実、今の時代ではまだまだ子供の範囲だろう自分の年齢、平均よりも大分低い部類の身長。挙げ句の果てがこれでもかという程の童顔。…だから姿を晒すのは嫌なのだ。だいたい第一印象で必ず馬鹿にされてしまうから。

《…紫桜姫、と呼んでいただけるかしら。今から愚鈍で矮小で浅慮な貴方にもわかりやすく、序列というものを教えてあげる》

《はぁ?……ぁ…あぎゃあああああああああ!!》

………だから、こうして無礼な輩に挨拶代わりのお灸を据えてやることも、仕方のない事なのだ。

2014/10/22

[*前へ]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!