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夜空を纏う銀月の舞
霧の中の想い達8

「198、199、200……後は起動ボタンを押して……よし、動いたか」

彼…骨っこが皆から受け取ったレンズをエンジンのタンクへと投入し、起動させる。
がこん、と一度安全装置なのか、何かが外れたような音に続き、低く唸りながら廃坑内の各設備へとエネルギーを供給し始める。

「これで入り口二階にある爆弾製造機が使えるようになった筈だ。戻るぞ」

「よし、行こう!」

システムモニターを確認し、パネルから手を離した彼に頷き、カイルが先頭を進み始める。その隣にはリアラ、すぐ後ろにロニ、続いて骨っこ、その左隣に私(肩にフィオ)。
ちら、とシャルさんを見てみるけど、イレーヌさんの存在には気付いてないみたいだ。骨っこの右隣を歩くシャルさんは、前を進む三人を微笑ましく見守っている。

……ソーディアンでも、幽霊は感知出来ないんだ……

まぁ、これまでイレーヌさん以外でも色んな所に居たにも関わらず総スルーしてた辺り、わかってはいたけど。
イレーヌさんはといえば、私の左側でフィオと小さくお喋りしている。魂が妙な濁り方をしている点を除けば、普通の穏やかな人だ。

「……おい、先程から肩のそいつがぶつぶつ煩いが、なんなんだ」

あ。

そっと目だけを動かしてフィオを見れば、彼女もお喋りを中断して固まっている。

「……あ、え、えっと……前の三人が怖がると可哀想だから、内緒にしてあげて」

「……なるほど、そういう事か。しかし本当に居るんだな、昔から半信半疑ではあったが」

「ん。普通の人は見えないだけで、結構居るものだよ。……私が見た所で多かったのは、やっぱりダリルシェイドかな」

「そうか……。確かにあそこは、未だに荒れ果てたままで復興の兆しがなかった。被害者の慰霊も、恐らく満足に出来ていないんだろう」

「いけない方向に堕ちそうな霊とかは、気付いたら優先して浄化するようにはしていたけど…全体での数が多すぎて、焼け石に水」

「ほう、だからあまり稼ぎにならなさそうなあそこにまで、わざわざアイグレッテから足を伸ばしていたのか」

「……うん。知っちゃったら、放っておけなくて」

少しの間目を閉じて、かの荒れた街を思い出す。

崩れ砕けた城壁、焼けて煤汚れた瓦礫の山々、半分近く落ちてしまった堀を跨ぐ橋、誰の目にも映らない、埋もれた腕、足、首、炎に巻かれ始めてから真っ黒に炭化していくまでの記憶を繰り返し続ける人、恐慌状態のまま街中を走り回る、片目の抉れた男性……

少し思い出しただけでも、現在と過去が重なったまま未来へと時間を進められない、あの地獄を彩る凄惨さに目の奥が熱くなる。気を抜けば雫が落ちてしまいそうだった。

「本当は、大きな慰霊碑でも置いて全体的な供養をしてあげたいけれど……今の神団はそんな慈善事業はしないし、しているのはフィリアさんを始めとしたあの人傘下の少数派。そのフィリアさんにしたって、地位こそ四英雄として高司祭に就いているけど、権力なんてない。全部エルレインが握っている」

「だから、神団の業務からは少し外れた役職のお前が、単独で出来る範囲の事をしていたわけか……フン、あいつみたいな事をするんだな、お前は」

「あいつ?」

「……妹の事だ。あいつも、死者に対しての気持ちが強かった。視える奴はみんなそうなのか?」

「どうかな。……霊に対して、"堕ちたら処理すればいいだけだ"と非情な人も居たし、我関せずを貫く人も居たから……私がお人好しなだけ、かも」

前世で過ごした、あの特殊な隠れ里に住む人々の事を思い出す。その考え方は十人十色、人それぞれだ。"あの子"にしたって、特別積極的に干渉しようとはしなかった。無関心ではなかったけれど、お役目がある関係上必要以上に関わる暇がなかったのもあるだろう。
……それはそれとして。さっきから彼らしくない迂闊な発言が多い気がする。
私に対しては一応、幽霊という事になっているシャルさんと日常的に会話しているにも関わらず半信半疑、と言ったり、妹さんの事もそう。
完全に彼の正体を確信した私としては、あまり突っ込む気にはなれないけど、一応忠告だけしておこう。

「骨っこ、あまり話し過ぎると、名前を隠してる意味、なくなっちゃうよ」

「!……お前、……。いや、なんでもない。だが僕からも言っておく。僕は"お前だから"話したんだ。少なくとも前に居る三人に今のような危険な発言はしない」

そう言うと、彼は歩くペースを上げて先へ行ってしまった。

ねぇ、それって……もしかして。
私には、知られていてもいいって事なの?そのくらいには、信用して貰えてるって事なの?そんな言い方をされたら、キミに対しての恋を自覚したばかりの私が舞い上がっちゃうって、わかってて言ってるの?
……ねぇ、やっぱりキミは意地悪だよ。その気もないクセに、私ばかりその気にさせて。芽があるって勘違いさせないでよ。

「……ばぁか」

悪態をついてみたはいいけれど、思ったよりも遥かに小さく出たその声は。彼に届く事もなく、やがて薄暗い坑道の土壁へと融けて消えていってしまった。


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あきゅろす。
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