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夜空を纏う銀月の舞
霧の中の想い達7

薄暗く、見通しの悪い廃坑の中を進んで行く。
数メートルおきに壁に設置されているランタンへと、火を入れながら奥へ奥へと歩いて行けば、何やら大型のコントロールパネル付きの機械がある場所へと出る。
これはなんだろう?と首を傾げる私の前で、仮面の彼が機械の説明を始めた。
曰く、この大きな機械は"レンズ起動型エンジン"というものらしく、規定枚数、動力となるレンズをタンクに入れさえすればまだ使えるだろうとの事だ。これが動けば、まだ生きている廃坑内各所の設備は使えるようになるらしい。
とりあえず、少なくとも探索したい場所へ進む度に一つ一つ灯りを点ける手間は省けるし、先程崩れて通れなくなっていた場所の土砂を退かすための爆弾製造機が使えるようになるので、皆で手分けして必要なレンズを探して回る事になった。

「お、またありましたよユカリさま!ひいふうみい……17枚!……私、レンズハンターの素質あるんですかね?」

「ルーティさんに弟子入りしてみる?」

18年前、強欲の魔女として名を馳せたレンズハンターから一転して四英雄となったルーティさんは、その界隈ではちょっとしたレジェンドになったらしい。が、それもオベロン社解体と同時に職業として成り立たなくなったために、業界自体が衰退していったらしいけれど。
フィオと二人でレンズ探しに出た私は、それを彼女に任せて別の事をしていた。

《それにしても、驚いたわ。今、この私に話し掛けてくる人が……いいえ、姿が視える人が居たなんて》

「そういう体質なので。でもあなたがかのイレーヌさんだとは思いませんでした」

そう、彼をずっと見つめていた幽霊のお姉さん……イレーヌさんとの対話。彼に気付かれないように彼女に呼び掛けた所、素直に応じてくれたのだ。

《意外、かしら?》

「えぇ……あ、いえ、意外なのは、失礼かも知れませんがあなたのお人柄です」

《そう?…もしかして、それは私達が大罪人だからかしら》

「……ごめんなさい」

《謝らないで。本当の事だから。……私は、事を急ぎすぎたのよ。理想にばかり囚われて、周りが見えていなかった……気が付いた時には、もう何もかもが手遅れだったの》

ぎゅう、と胸を押さえて苦しみに耐えるように、彼女は目を伏せて語る。
悔やんで悔やんで、それが未練となり、18年もの間ここに縛られていた事を思えば、彼女の言葉は紛れもなく本心なのだろう。

《ねぇあなた、あの、変わった仮面?の彼だけど……もしかして》

「お知り合い、なんですか?やっぱり。ずっと気にしてらしたようですし」

あれ、でもおかしい。彼女、イレーヌさんは18年も前に亡くなっている。その頃からの知り合いというなら、彼の年齢とはどう考えても釣り合わない。

《えぇ、何度も彼とは顔を合わせて話しているし……間違える筈はないわ。でも、どうして》

どうして死んだ筈のリオン君が、あの頃のままで生きているの?

……!!あの頃の、まま?直接の知り合いだと言う彼女がそう言うという事はつまり、少なくとも容姿はほぼ全く同じだろうという事。記憶持ちで転生した私でも、顔こそ変わらないものの身長や髪色など細部は変わっているというのに、それ以上のイレギュラーだっていうの?……そんなの、まるで

《生き返ったのかしら……いえ、でもそんなの有り得ないわよね。そんな神様が起こす奇跡みたいな事。ごめんなさい、やっぱり、良く似た別人だと思う》

「"奇跡"……"神様"……。……っ!!」

ある。一つだけ、可能性が。たった一つだけ、信じたくない可能性が。
死者を生き返らせる程の奇跡を起こせる者、"聖女"が…この世界には、居る。

「エル、レイン……!!」

怒りが沸いた。どうしようもない程の、衝動的な怒りが。何故かはわからない。理由なんてわからない。けれど、人の"命"までも操っている彼女に、人の尊厳までも我が物顔で汚すような彼女に、抑えきれない程の嫌悪感が沸き、身体中が爆発しそうな感覚がした。

《あなた、どうしたの?震えているけれど》

「……い、いえ。気に、しないで、ください……」

これで、全てが繋がった。彼は、紛れもなくリオン=マグナス本人。ソーディアン・シャルティエを持つ、四英雄と並ぶだろう資質を持つ彼。リアラが英雄を求めると同様、恐らくエルレインも自らの駒となる英雄を求め、彼を蘇らせた。
けれど、何故か彼女の元には居ずに単独で行動している辺り、交渉は決裂したのかも知れない。或いは、彼が自由に動く事自体が彼女の狙いなのかも知れないけれど……でも普通に考えれば、駒とするなら傍に置いた方が勝手はいい筈。彼の性格を鑑みても、決裂したと見ていいだろうと思う。
思い通りにならずそれでも尚、殺さずに生かしているのは、"人間を幸せに導く"という聖女の性質、慈悲からなのか。……そう思うと、はしたない表現にはなるけど反吐が出る。どこまで上から目線なんだろう。もう、ただ気に入らないという次元の話じゃない。
……つくづく、リアラとの違いが浮き彫りになった気がする。アレが聖女としての"完成形"なら、リアラはあんな風にはならないで欲しいと切に願わずにはいられない。友達が、あんな人の命を道具かなんかみたいに扱うモノになる姿なんて絶対に見たくないもの。

「イレーヌさん、貴重な情報、ありがとうございます……お礼に、という程ではありませんが…、あなたの未練を解消するお手伝い、させてください」

《……?よくわからないけれど、こんな身の私が誰かの、あなたのお役に立てたなら嬉しいわ。そう、ね……ずっと気付かれないまま、忘れられたままの、大切な場所がこの廃坑にあるの。私はそこを、後世の人に託したい…お願いしても、いいかしら》

「はい、喜んで。案内、お願いします」

そうして私達はある程度のレンズを回収し終えると、他の場所を探している皆と合流するためにエンジンのある場所へと引き返した。


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