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夜空を纏う銀月の舞
霧の中の想い達3

「く、クックッ……フ、ハハハハハッ!」

そしてついに笑い出した。……珍しい、彼がこんなに声を出して笑うなんて。もしかして、初めてなんじゃないだろうか?

「お、おい……何笑ってんだよ……」

「クックックッ……いや、すまない。全員揃って真っ赤になっているのがあまりにも滑稽でな。まぁこのままではあまりにも哀れだから教えてやる。おい、お前。昨晩、あいつの水分をとろうと本体の状態で干しただろう」

え。うん、まぁ……いつものセクハラをし始めたから、お仕置きついでに干したけど。

「お前がそれを忘れて眠った後、焚き火の炎が燃え移りそうになっていてな。……いや、燃え移りかけていたのは僕らが揉めている最中からだったか。とにかく、それをロニが助けたというだけの話だ。火照った体、とはつまり、炎に炙られていた体の事だ」

「気付いてたならさっさと助けてくださいよ!危うく本気で燃えるトコだったんですから!」

…………。ああ、納得。つまりフィオは、危ない所を助けて貰った事でロニに心を開いた……というか、懐いたんだね。

「なんだ、そうだったの」

心底ほっとしたのか、大きく息をついて胸を撫で下ろしたのはリアラ。つい先程までの濃さはないものの、まだ幾分頬に赤みがさしていた。
誤解が解けた事で、全身から力を抜いて脱力していたロニはといえば。彼は肩の上に居たフィオを、猫を摘まむようにして顔の前でぶらぶらさせている。

「ったく、お前の冗談はタチ悪いっての」

「まーいーじゃないですか。誤解も解けましたし」

「ジューダスの奴が説明してくれなかったら、最低ヤローになっちまう所だったろうが。さっきのリアラの表情とかユカリの慌てっぷりを見ただろ。反省しやがれ」

「可愛かったですよねっ」

「アホかっ!!」

……うん、ほんとに反省して。危うく彼を軽蔑しかけたし。キミはこのパーティを壊したいの?

「でも良かったですねー。彼が居てくれて。ナンパ魔から色欲魔にランクアップせずに済みましたし」

「!」

「"ちゃんと気遣ってフォローしてくれました"し。くだらない事ですけど、"だからこそ"、こんな事で関係がぎこちなくなるのは仲間としては嫌ですもんねー」

「……フン」

……時々、主人の私でもわからなくなるよ、フィオ。キミは普通にしてれば優秀なのに、ヘンな行動で損をし過ぎてるもの。
わざとそうしているのか、本当に無自覚に思った事を口にしてるだけなのか。なんとなくだけど、今のは昨晩の私達のフォローに聞こえる。

「そう、だね。仲間なら信じてあげなくちゃ。……"疑うよりも先ず"、信じることから、始めなきゃだね」

「ユカリ……」

「ロニはえっちでフラレマンだけど、見境なく女の子を襲うような外衆じゃないって」

「おいコラ」

「ねー、ユカリさまっ」

「お前らなぁ……っ!!ヒトを何だと思ってやがる!!」

「え。モテない23歳」

フィオと二人で口を揃えて言ってやれば、一瞬感動しかけていた彼はおいおいと泣き崩れた。効果はばつぐんだったみたい。

「そこでうちひしがれているバカは放っておくとしてだ。そろそろ朝食にしないか?このままでは冷めてしまう」

あ、すっかり忘れてた。そういえば、やっぱりこれだけ騒いでもカイルは起きてこない。振り返って様子を見ても、とても幸せそうに眠ったまま。

「……まぁ、魔女が作ったものだ。気が進まんのなら僕が腕をふるってやってもいいが」

「ちょっと、それどういう意味?」

失礼な。ちゃんと食べられるよ。……味は、保障出来ない……けど……。

「フン、まともなものならいいがな。いいからさっさとカイルを起こせ」

と、彼は人数分の器を用意し始める。
……彼のおにぎりの中に梅干しでも入れてやろうかと思ったけれど、生憎持ち合わせがなかった。機会があったら、いつか食べさせてやろう。


――ざ、ざ、ざ……と、視界いっぱいに広がる白い霧の中を、五人分の足音が響く。その中で、妙にペースの不規則な足音が一組あった。
早くなったり、遅くなったり。止まったかと思えば、慌てたようにまた早くなったりと、忙しない。
それに合わせるように、また一つだけ、妙に呼吸が苦しそうな音があった。
その呼吸音は忙しない足音とセットであるらしく、聞こえてくる場所は常に同じである。
そして、ついにそれらの音の持ち主へと、声がかかった。

「ねぇ、大丈夫?ユカリ」

「はぁっ……ふぅっ……はぁっ……だ、いじょ……ぶ……」

その正体はユカリだった。彼女は山小屋を出てからずっと、皆に合わせて自らの足で歩いていたのだ。

「辛いなら休む?」

「ううん……いい……ありがと、リアラ……」

「でも、どうして急に歩こうと思ったの?」

「ん。……リアラだって、頑張って歩いてる……のに、私だけ楽しちゃ、ダメ……だと、思った、から」

「でも……」

リアラの心配ももっともである。なんせユカリは、背中は丸く、肩で息をし、体重の殆どを杖に預けるようにしてついて歩いてるのだから。まるで重病人か、白寿を迎えた老人のような状態だ。

「それ、に。少し前……から、考えてた、の。体、鍛え直さなきゃ……って……」

そう、かのフォルネウスとの戦いや、バルバトスとの戦い。あれらは、体力さえあれば、もう少し結果は違っていた可能性があった。
近接戦闘の持続時間はもとより、防御を貫かれた際の脆さが露呈した戦い。それに加え、いかに莫大な巫力を抑制するためとはいえ、常時フィオへの巫力の供給、移動に巫術を用いることでの消費。これがなければ、まだいくらか持ちこたえられたのだから。
……つまり、ユカリは24時間、常に巫術を行使し続けている状態。これからの旅は、そんな力の無駄遣いをしていては皆の足を引っ張り続けてしまい、とても守るどころの話ではなくなる。そんなわけで、鈍りに鈍った肉体を鍛え直す必要が出てきた為、まずはリハビリにとこの山道を歩くことに決めたのだった。


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