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夜空を纏う銀月の舞
霧の中の想い達2

「……む……」

「あ。…………お、ハヨ……」

翌朝。そこそこに早く起きたユカリは、皆が起きる前にと朝食の支度を始めた。
お米を洗い、飯ごうに詰め、水を入れて、火にかける。
しばらくすると、ご飯が炊けてくるいい匂いが漂ってくる。そしてそれに合わせ、リリスに分けて貰っていた焼き鮭の切り身と海苔を用意。
蒸らしまで終わり、ご飯が炊けたら、掌に乗る分だけのご飯を乗せて、中に具を詰め込みころころと両手で包んで転がす。そうして最後に、海苔をくるっと巻けば完成だ。
それを人数分掛ける三つずつ用意して、あとは同時進行で作っていたお味噌汁をよそうだけ。
簡単過ぎる、といえばそれまでだが、持参して来た食材と山小屋に無償提供で置かれている配給品。ここの簡素な設備でなら十分だと思われる。これで文句を言うならば、あとはひっくり返すなり怒るなりすればいい。自分は誰かの理想のように、美人で優しくて、お料理も出来る……そんな"イイ女"ではないのだから。
などと、自分で作っておきながらマイナス思考のドツボにハマりつつあるユカリ。彼女は朝食が冷めない内にと、順に皆を揺すり起こしていき――冒頭に至る。

「……お前か。どうした、何か用か?」

「え、と、そ、……その……」

どうしてだろう。彼に自分の作ったものを食べてもらう事を考えたら、急にやたらめったら緊張してきた。言葉が上手く出てこない。

「……あ、アサ……」

「あさ?……あぁ、そんな時間か。すまんな、僕とした事が少々寝坊した」

「コ、コゴ、……ハンゴ……」

「……?」

あああああ、そんな何語だ?みたいな顔しないで。ほら、わかるでしょ?匂い、匂いしてるから!

「……ああ、朝食か。」

心の中でぴんぽーん、と赤い丸の書かれた札が立ち上がる。発想がフィオに若干汚染されてる気がしないでもないけど、よくぞ答えた!!と褒め称えたい。

「わかったからそんなに首を上下に振るな。寝起きに目の前でそんな動きをされてはかなわん……もしかして、お前が作ったのか?」

「……ハイデスっ」

「……何を緊張しているかは知らんが、とりあえず落ち着け」

いや緊張するよ。だってあのリリスさんの手料理すら素直に誉めなかったんだもん、キミ。行動だけはやたらと素直だったけど。……舌、肥えてそうだし、何を言われるかが怖い。

「……まぁいい。だが、後ろのお前達。何を生温かい目で僕達を見ている。そこのダブルバカはいいとして、リアラ、お前が混ざっているのは意外だな」

え?

後ろを振り返れば、ロニとフィオ、リアラの三人が、何やら妙な微笑みを湛えつつ私達を眺めていた。

「あのー、ダブルバカとは私達のコトですかー?」

「おいジューダス、訂正しろ。なんでこいつと一緒にされなきゃなんねぇんだ?」

「断る。バカとバカがくっついているから一括りにしただけだ」

うわ、ばっさり。……でも、あれ?フィオ、ロニの肩の上に乗ってる……珍しい。私とフィリアさん以外の人に乗るなんて事、しないのに。

「しっつれいですねー。私はともかく、ロニ様に向かって」

――衝撃が走った。

「ロニ"様"!!!?」

フィオ以外の全員の声が重なる。

「……様、って……どうしたの?フィオ」

思わず私も素に戻ってしまうほどの衝撃だった。
そんな私にわざとらしくウインクを飛ばしたフィオは、なにやら頬をうっすらと赤く染め、その両側を手で包みながらいやいやをするような仕草で……しかし表情はうっとりとしながら。

「だって、私達、一緒にオトナの階段を二つくらい飛ばした感じで駆け上がっちゃいましたから」

と、恥ずかしそうな、嬉しそうな口調で爆弾発言を繰り出した。

「ンなっ!!!?」

目の前のロニは一気に真っ赤になり、肩の上のフィオを睨んでいる。

……え、嘘?ちょっと、お、オトナ……って、何があったの?

開いた口が塞がらない私。ロニの隣で聞いていたリアラは、リンゴみたいに真っ赤になっている。普段色白な彼女なだけに、その変化は余計にわかりやすい。一体何を想像したんだろうか。

「おっ、オマ!何ありもしねぇ大嘘ぶっこいてやがる!?……いや違うぞみんな、俺はただ

「熱く体の火照った私を、そっと優しく床に寝かせて……きゃっ」

だぁーーーっ!!ちょっと黙りやがれっ!事態をややこしくすんじゃねぇっ!!」

え。

え。

ええぇぇぇぇぇ…………。

何。もしかしてもしかして、私達が寝てるそばで、…………、ええぇぇぇぇぇええええ……。

そういう類いの知識に乏しい私でも、さすがになんとなく、ぽやっと、ふわっと、想像してしまった。想像が、ついてしまった。
うわ、どうしよう……顔。顔が熱い。むしろ全身が熱い。今ならリアラに負けないくらい真っ赤になってる自信がある。

「あ、あわわわわわわわ……」

「お、おいリアラ、ユカリ。違うぞ。違うからな?」

助けを求めるように、ロニが半分泣きそうな顔で腕を伸ばす。

びくり。

思わず反射的に体が跳ねる。リアラも同じだったようで、まるで怯えるようにして後ずさっていた。

「お、おい。そんな怖がらないでくれ。頼むから。……そうだ、ジューダス、お前からもなんか言ってくれ。俺は断じてナニもやってねぇ」

彼の名前が出た事で、私とリアラは骨っこの方を見た。……すると、彼は何やら手を口元に持っていき、くつくつと必死になって笑いを堪えていた。


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