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夜空を纏う銀月の舞
名前を呼んで7

「――――」

はなし、ごえ?

『――――』

……ああ、骨っことお兄さんが話してるのか…

「まずいぞ、シャル。皆が居る前で」

……シャル?お兄さんの、なまえ…?

彼の口から出た名前が気になって、閉じていた目を薄く開いてみる。私が眠っているのは、小屋の出口に一番近い手前側だった為、2メートルほど離れてすぐ正面には骨っこの背中が見える。
彼は背中に手をやると、マントの下から豪奢な装飾のなされた銀の曲刀を取り出した。鍔の中央には、丸い大きめのレンズが埋め込まれている。

剣…あれが媒介?それに、鍔にレンズ………――まさか。

「………少しだけだからな。しかしお前もそう思うか?あいつにソックリだと」

思い当たった心当たりに、私が驚愕しているとは露知らず。骨っことお兄さん…シャルさんは小声で会話を続けている。
あれが仮にソーディアンだとして。今この時代で存在し得るとすれば可能性は二本に限られる。
一つは、騒乱の首謀者・ヒューゴが所持、使用していたというベルセリオス。そしてもう一つは、その息子リオン=マグナスが使用していたらしいシャルティエ。
神の眼を砕くのに使われた四本を除き、この二本だけは行方が知れないとされている。
あのシャルさんがソーディアン・シャルティエだとして、彼が何故、骨っこの手にあるのか。しかも、よくよく彼らとの会話を思い出してみれば、その繋がりは浅くはないとわかる。
そして、数々のキーワード……"旧ヒューゴ邸"、"18年前の騒乱についての知識"、"ルーティさん"、"亡くした妹のような存在"、"卓越した双剣術"、"ジューダスの意味"、"見せられない素顔"、極めつけが"ソーディアン・シャルティエ"………証拠が、あまりにも揃いすぎている。

――ああ、彼は、骨っこは、リオン=マグナス…だったんだ……。

そうとわかれば、もう色々と納得してしまった。彼が出会って間もないカイル達を育てるような戦いをしていたことも、一緒にこうして旅をしていることも。
そりゃ、目が離せないだろう。彼はルーティさんの弟で、カイルはルーティさんの子供。……甥っ子にあたる"家族"なのだから。
ただ不思議なのは、リオンが死んだとされるのは16歳。今の骨っこも、見た感じでは16歳前後。それもソーディアンを当たり前のように所持している。…私のように記憶持ちで転生したのだろうか。
そんな稀有なケースがそうそう起こるものだろうかとも思うけれど、私自身がある意味イレギュラーの塊なだけに、可能性を否定も肯定も出来ない。
ただ、私と同じであるとするならば、彼が"今の"名を明かさないのは不自然であるし、そう都合良く"行方不明のソーディアン"が元の持ち主の手元に辿り着くだろうかという疑問が沸く。
あの剣、シャルティエは罪深い裏切り者の剣、としてレプリカは製造されていなかった筈であるし、投射された人格が視えているあたり本物と見ても間違いないと断言出来る。
そもそも、その製造方法は千年前に失われたロスト・テクノロジーだ。本物と同等のレベルで複製出来るわけがない。

……機会があれば、訊ねてみようかな。答えて貰えるかは、わからないけれど。
…ん?ちょっと待って。……私自身も"痛い"けれど彼が言い逃れ出来ない手があった。幸い、行き先はノイシュタットだし……交渉は多少強引でも、いいか。

と、色々と考えている間に何やら騒がしくなってきた。ふと目をやれば、私のすぐ足元の近くで、ロニが彼に向かってやたらと厳しい目を向けている。

……なんだろ?喧嘩、してる?

「――いつまで保護者気取りを続けるつもりかと言ったんだ。……お前はそれで満足だろうが、そうやってカイルを甘やかしている限り、あいつは成長しない」

「てめぇ……何様のつもりだ!俺はな、お前なんかよりもずっとカイルの事を……っ!!」

りお…骨っこの厳しい言葉に、激昂し今にも掴みかからんと詰め寄るロニ。
……そう、"厳しい言葉"。決して彼が言ってる事は的外れじゃない。何がロニをそうさせるかはわからないけれど、はっきり言って過保護だ。ロニは兄というより、そう……まるで親のように振る舞う時がある。それも、もっと年端もいかない子に対してのそれのように。……でも。

「……ロニ?」

今のままでは殴り合いに発展しかねない、と止める為に空気の壁を二人の間に展開しようと、毛布の下で杖に手を伸ばしていたところでリアラが目を覚ました。……ごめん、ちょっと遅かったね。

「なにかあったの?」

「あ、あぁ、リアラ。起こしちまったか?悪ぃな、なんでもねぇんだ」

「……ウソ。だってロニの顔、凄く強張ってる」

……ま、それはそうだよね。鋭い彼女には勿論だけど、そんな怖い顔してたら誰にだってわかるよ。

「カイルの事ね?ロニがそこまで怒るのって、カイルの事だけだもの……ねぇ、何があったの?」

「……ホントに、なんでもねぇんだ」

「なんでもないわけ、ないじゃない!だってロニ、今にも殴りかかりそうだったし!」
「なんでもねぇんだっ!!!!」
「っ!?」

ひた隠そうとするロニにリアラが問い詰めれば、ロニは反射的にか、思いっきり怒鳴り返してしまう。リアラは驚いて目を瞑り、身を竦ませてしまった。

「ロニ、そこまで。リアラに当たらないで……ごめんねリアラ。止めるタイミング、見付からなくて」

「…、ユカリ…ううん、わたしが思わずむきになっちゃったから」

さすがにこれ以上は傍観していられなかったので、フードを被り直し、立ち上がってリアラの腰に手を回して抱いてあげる。身長は彼女の方が高いから、傍目には逆に見えるかもだけど。

「ユカリまで起こしちまってたか…悪ぃ、怒鳴るつもりはなかったんだ、その……」

気まずそうに中空に腕をさまよわせながら、謝ろうと一歩足を動かしたロニ。そんな彼に対し、リアラもつい反射的に動いてしまったのだろう、びくり、と肩を震わせて私の背中に隠れる。
それを見てロニはいっそう罪悪感を感じたのか、表情を歪ませてそれ以上動けないでいた。
骨っこはといえば、先程からずっと変わらずに刺すような冷たい視線を、ロニに向けたままだ。

――重たい沈黙。

誰もが一時、言葉を発せないでいた。けれど。

「りあら〜」

!!

「……むにゃ……ずっと、いっしょに……………」

ついにカイルまで起きてしまったのかと全員で目を向けたが、彼はこの状況でも口の端から涎を垂らしながら幸せそうに眠っていた。

「なんだ寝言かよ……人騒がせな奴だな。ったく……」

「……いっしょ……ロニも……ジューダスも………ユカリも……おまけに……ふぃ…………いっしょだ……へへっ……」

なんとも、気の抜ける寝言。あれだけぴりぴりして張り詰めていた空気が、一気にほのぼのとした空気に変わってしまった。

まったく、この子ってば……。

「強いて言うなら、おまけじゃなくてちゃんとフィオも呼んであげて欲しかったな。寝言じゃ注文するのは酷だけど」

「ふふっ…そうね」

リアラも緊張が解けたのか、控えめだけど笑ってくれた。

「おい、ジューダス」

「なんだ?まだ何か言いたいのか?」

「寝ろや。見張り、交代してやるよ。あいつの寝言聞いてたら、ど〜でもよくなっちまったよ。ったく、カイルの奴め!」

すっかり毒気を抜かれてしまったロニは、脱力した様子で骨っこに交代を申し出る。肩を竦ませて降参、のポーズだった。

「ふっ、……では休ませて貰おう」

そんな彼に骨っこももう身構える必要はない、と感じたのだろう。小さく笑みを浮かべて隅の壁際まで移動すると、壁を背にして座り休みの態勢に入った。横にならずすぐ動けるよう配慮しているあたり、本当に旅慣れしている。
彼がリオンとほぼ確信した今では、そんなさりげない振る舞いにも納得出来てしまう。恐らく、客員剣士として活躍していた時に身に付けたのだろう。敵意を向ければ、直ぐ様ナイフが飛んでくる……そんな程度には、隙が無い。

「リアラも、もうちょっと寝とけよ。見張りはやっとくからよ」

「あの、ロニ、ごめんなさいっ」

謝るリアラに、どうせ寝付けないしな、と笑って答えるロニは、もう殆どいつもの彼に戻っていた。
問い詰めた事、とリアラが重ねても、お互い様だと笑って気を遣う余裕もある。

「ユカリも、悪かったな」

「ん。いいよ。私は別にこれといって何も被害受けてないし。…でも女の子を怖がらせた所は、減点しておくね。八つ当たりは最低」

「ゔっ……反省シテマス……」

「ふふ。…じゃあ、お休み。眠くなったら、私を起こしてくれていいから」

「へっ、お前は気にせず休めよ。……体力ないんだからな」

「ほっといて」

こうして少しだけ軽口を叩き合い、私もリアラと一緒に眠りに就いたのだった。

2015/04/19
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