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夜空を纏う銀月の舞
名前を呼んで6

それから少しして、カイルが私達よりも先に起きて外に出ていたリアラを迎えに行き、戻ってきた二人も含め全員で朝食をいただいてから、お世話になったリリスさんの家を後にした。……そういえば、旦那さんと娘さんが居るって言ってたけど会えなかったな。もしいつかまた来る時があれば会ってみたいと思う。
このままリーネを出発すれば、ここからはノイシュタットへと陸路を南に縦断していく事になる。んだけど。

「ふう……」

なんかやたらと暗い雰囲気を醸し出してる人が約一名。なんなの。

「どうした?珍しく静かじゃないか。拾い食いでもして当たったのか?」

「ほっとけ。俺だってなぁ…色々あるんだよ」

色々、ねぇ。

「ほぉ、お前も悩むような頭を持っていたんだな……そんな風には見えないが」

「ダメよジューダス。ロニったらナンパに失敗したらしくて、落ち込んでるの。優しくしてあげて?」

「何かと思えばそんな事か。くだらんな」

「どうせそんな事だと思った。期待を裏切らないよね、ロニって」

「残り何機ですかー?あ、もう詰んでます?キノコ食べます?」

「ユカリにフィオまで……」

「そうだよ三人とも!ロニにとっては死活問題なんだよ!」

いいの二人とも。この人はフラれる事がアイデンティティなんだから。ナンパに成功したらロニじゃない。あ、そういえばリアラってロニに口説かれてない。カイルが入れ込んでるからかな?

「お前らウルサイぞぉ!……こうなったらノイシュタットで敗者復活戦だぁっ!待ってろよぉノイシュタット!!」

天高く拳を突き上げ吼えるロニ。村の人々が何事かとこちら側に注目している。

「…恥ずかしい…」

「他人のフリ、他人のフリ……」

フィオ、一人だけ逃げないの。

ともあれ、こうして私達は平和で長閑なリーネ村を後にした。

――――"白雲の尾根"。
そこは18年前の騒乱の折、地殻破砕兵器ベルクラントによる砲撃を受け、大地が破砕された際に大きく地形が変化した場所だった。
その地形の変化により気候も大きく変わってしまい、年中深い霧に覆われた土地になった為このような名称になったらしい。

「――ってわけだ」

「すっごい!ロニって物知りなのね」

以上をロニがカイルとリアラに説明すると、二人はしきりに感心していた。
ロニはそれに気分を良くしたらしく、言わなきゃいいのに得意気な顔でこう続ける。

「いやな、神団の資料を収めた書庫に美人の司書さんが居てだな……その人とお近づきになりたくて覚えた知識が、まさかこんな所で役に立つとはな」

「いやあ誉められて悪い気はしませんが、そんな事覚えられても"勉強熱心ですねーうふふ"ってなるだけですし、私はユカリさま一筋なので」

「……まさかその司書さんがこんな同性愛者な上に人間ですらなかったなんて……くう…っ!!」

「あー!それマイノリティに対する差別ですよ!偏見ですよ!使い魔差別反対!!」

フィオはぷんぷん怒っている。
そう、彼が声をかけた"美人の司書"とは彼女の事だった。彼女が私の代理で司書の業務をしている時に通っていたらしく、その時に私とも何度か顔を合わせている。
二人の会話を聞いていた私含め四人は全員呆れ顔。とにかく、立ち話していても仕方がないので先へと進む。


白雲の尾根は年中霧に包まれているだけあって湿気が凄まじい。三時間も進めば、皆の服はじっとりと水を吸って重くなっていた。

「うう…体が重いですぅ…」

元が人形…というかぬいぐるみのフィオにとってはまさに海に沈められたような気分だろう。私の肩の上ですっかりへばっていた。

「無理してそんなとこに居ないで、ポーチの中に入ってたら?」

「でも皆さん、というかあの前衛組は色々不安ですし、私も居ないとバランス崩れません?」

現在の戦闘配置はこうだ。前衛・カイル、ロニ。中衛・骨っこにフィオ。後衛に私とリアラ。
とにかく突っ込んで切り込んでいくばかりの強引な二人のブレーキ役に骨っこが当たり、三人と私達を繋ぐ橋渡しにフィオが居てくれるのでなんとか戦闘のバランスが保てている状態。
確かに、抜けられると少々厳しくなるかも知れない。

「構わん。動きが鈍って連携が詰まってはかえって足手まといだ。居ない方がマシだな」

「がーん!いらない子宣告!?」

またそういう言い方を……。なんで私には素直な優しさを見せてくれてたのに、他の人には当たりがきついの?

「ふん、雑巾絞りされたくなければさっさと避難したらどうだ」

「うう……はい……いらない子は消えますぅ…」

フィオはしょんぼりしながら私のポーチに入っていった。

「骨っこ、もう少し言い方、なんとかならない?」

「僕は事実を述べたまでだ」

それきり彼は手にしていた地図に再び目を落とすと、方角を確認しながら先へと進んでしまう。前に居るカイル達三人に声をかけ、導いていく背中を、私は少し切ない気持ちで眺めるしかなかった。

それから暫くして、先を歩いていたカイルが木造の山小屋を発見。
リーネを出てからずっと、休みなしで魔物との戦闘を挟みながら進んできた為に疲労が嵩んでいた私達は、そこで一晩休憩することにした。気が付けば辺りがすっかり暗くなっていた事もあり、夜の闇にこの深い霧では遭難の危険性が高いのもある為だ。

「オレ、山小屋って初めてだよ!へぇ〜、こうなってるんだぁ……」

「元気だねぇ、お前は。ふわぁ〜あ……、霧の山道ってのは、歩くだけで疲れるな」

中に入るなり、カイルは物珍しげにきょろきょろと小屋の中を見回しながら感動している。大あくびをしたロニは勿論、リアラに、箒に乗って体力を節約していた私も疲れは溜まっていた。
…意外なのはリアラが結構体力あった事だ。たまに一緒に乗せて休ませてあげたりはしたけど、この山道を殆ど自分の足で歩いている。
そんな皆の様子を見てか、骨っこが一人不寝番を買って出た。皆に仮眠をとらせる間、自分は見張りをすると。

「いいの?ジューダスだって疲れているんじゃ…」

「代わって欲しくなったら起こす。それまで体を休めておけ……特に、運動不足の魔女はな」

「……最後のがなければ素直に感謝したのに……」

「まぁまぁ。せっかく優先してくれたんだもの、休みましょ?」

ともあれ、私達は彼の厚意に甘えさせて貰う形で仮眠をとる事にした。
……昨日の彼はなんだったのかと思える程、その態度はすっかり元に戻っている。やはり私の調子に引っ張られていたのだろう。


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