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夜空を纏う銀月の舞
名前を呼んで5

「いやあ〜〜〜。だ、だれかあ〜〜」

翌朝。やたらと棒読みでテキトーな悲鳴がリリス家にそれなりの音量で響いた。何事かと台所から駆けつけるリリス、驚いて目を覚ますロニとジューダスの三人がそこで目にした光景は、一体の死体が転がる凄惨な殺人現場だった。

「うわー。いったいだれがコンナコトヲー」

先程の悲鳴に、さらに輪をかけてテキトーかつ抑揚のまったく感じられないセリフを淡々と呟くユカリの足下。そこでは一人の少年がうつ伏せになって倒れていた。まるで誰かに襲われたような格好で倒れている少年の背中にはナイフの柄がにょっきり生えており、彼の体の輪郭をなぞるように白い線が頭の先から爪先まで囲う形で描かれている。

「うぉおおおおいっ!?なんじゃこりゃっ!?」

「………くだらん」

「えっ!?えぇっ!?カイル!?」

三者三様のリアクション。
三人が見たのはカイルの死体だった。……いや、死体に見えるだけで、実際は寝台がわりのソファから落下したまま爆睡していつまでも起きないだけであるし、背中に刺さっているように見えるナイフは刃の部分を予め抜かれていて、粘着テープで柄だけ立つように雑に固定されているだけだ。

「……で。いつまでやるの?この遊び」

「もちろんこの子が起きるまでですっ」

いつも以上にフラットな声音でジト目を送るユカリの隣で、ふんと鼻息を荒げるのは復活したフィオである。
昨日ユカリに腕を縫って貰い、力を一晩かけて彼女から補充したフィオは人形に戻るなり、"非常に気まずい"状態で眠るユカリを目撃した。まだ男性陣は起きていなかった為、そっとユカリを起こしそこから脱出させると、真っ赤になって恥ずかしがる彼女に「みんなには内緒にしててあげますから付き合って下さいね」と脅しをかけ、この殺人事件ごっこを付き合わせていたのだ。

「あぁびっくりした。…もう、朝から驚かされちゃったわ」

「すみません、おバカな遊びに巻き込んでしまって」

「まぁ、びっくりはしたけど…こんなとこまで兄さんに似ちゃったカイルも可愛いから、いいわ」

ぺこりと頭を下げて謝れば、リリスさんはころころと笑いながら許してくれた。

……寛大な人で良かった。

「そう言えば彼女、昨日は居なかったけど…」

「ああ、この子はフィオといって…昨日のぬいぐるみの化身、と言えばいいんでしょうか?私の使い魔なんです」

「へぇ…なんだかよくわからないけど、あなたが人を扱うみたいに"重傷"って言った意味がわかったわ。魔法使いさんなのね、あなた」

「一応、魔女です」

…とフィオの事を説明する私の隣では、これまたどこから拾って来たのか、フィオが細い枯れ枝でカイルをつんつん突っついている。ばっちくないからそういう事しないの、この自由人。

「しっかし起きませんねー、この子。ユカリさま、一服盛りました?」

「失礼な。ていうか私のお薬を毒扱いしないで。営業妨害反対」

「……っていうコトで、真犯人はお前ダァーーっ!!」

「な、なんだってーっ!!!?……って、ふざけんな!どう考えても怪しいのはこいつだろっ!!」

「………付き合ってられん」

ずびしーっ!と指差したフィオに盛大に驚いたロニは、彼女の指を掴んで骨っこに向けた。彼は馬鹿馬鹿しい、と目も向けない。……というか、ノリいいね、ロニ。

「……お似合い?」

「かもね。……ふふふ」

リリスさんは楽しそうだ。
それはいいとして、カイルをそろそろ起こさないと。

「まぁ、こんなに騒いでも起きないなんて、カイルも筋金入りねぇ。…仕方ない。久しぶりに、"アレ"をやるか!」

そう言ってリリスさんは鼻唄混じりに一度台所に引っ込むと、何やら年季の入ったフライパンとお玉を両手に戻ってきた。……なんだろう、アレから変なオーラみたいなのが見えるような……凄く、イヤな予感が。

「あ。耳、塞いでてくださいね?」

悪戯っぽくウインクしながら笑顔を見せるリリスさん。それを見た瞬間、ロニは顔を真っ青にして耳を塞いだ。とりあえず彼に倣って私、フィオ、骨っこも耳を塞ぐ。

「いくわよ――秘技っ!死者の目覚めっ!!!」

――次の瞬間、金属音という名の巨大爆弾が、鼓膜を破壊せんと大爆発を起こした。

「んぁ〜……、かあさん…?なんか、感じが……」

「はいはい、いいから起きてカイル。朝ごはんにしましょう」

「ふあい……」

あれだけの爆音にも関わらず、割りと普通に、むしろのそりと寝惚けまなこを擦りながら目を覚ましたカイル。リリスさんは笑って台所へと戻って行った。……カイルもカイルだけど、あの音の爆心地に居たリリスさんは何故平気なのか。解せない。

「……み、みみふぁ(耳が)……」

「さ、さすがは本家…しっかり塞いだ筈なのに、耳鳴りが……」

結構近くに居たフィオは防ぎきれなかったらしく、発音が変になっている。

「きゅう……」

…あ。死んだ。

ぱたりとカイルの代わりに今度はフィオが大の字で倒れた。下着見えちゃうよ?

「本家?」

「ああ、ユカリは知らないんだっけか。ルーティさんもああやってカイルの奴を起こすのが日課なんだ」

あれが日課……あんなので毎日起こされたらストレスで憤死する気がする…。

教えてくれながらもフィオのスカートをさりげなく覗こうとするロニの顔の前に、視界を塞ぐため杖を突き付けて妨害したのは言うまでもなし。


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