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夜空を纏う銀月の舞
名前を呼んで2

「――っていうわけで、オレ達ここへ来たってわけ」

「そう…大変だったわねカイル。それに、皆さんも」

あれから1日。

アルジャーノン号にかかったリアラによる"奇跡の力"は、途絶える事なくフィッツガルド・リーネ村付近の浜辺に到着するまで続いた。
夜中再び目を覚ましたユカリは、気を失ってからの事情を仲間達に訊くと船長へと会いに行き、航行については大丈夫かと訊ねた。
それによれば、今この船はリアラの力によって空飛ぶ船と化しており、ただ浮いているだけでなく、通常の舵取りだけで進路を思うように進められるようになっているらしい。
この超大質量の物体を浮かせるだけでも驚嘆に値するというのに、操作性まで維持させるとはまさに奇跡と言う他はない。未だ覚めやらぬ船長の興奮も尤もである。その際にこれに関して何もしてないユカリまでもが聖女扱いされかけたが、断固として「魔女です」と言い張り押し通した。
又、現在維持されてはいるものの、術者が倒れている以上いつ力が途切れるかわからない。念のために航行速度を上げるように風を操作して海岸への到着を早める旨を伝え甲板にて夜を徹しようとしていると、その考えを見透かしたようにジューダスが甲板にて待ち伏せていた。曰く、

「お前には学習能力というものがないのか、この馬鹿者が」

という鬼の形相でのありがたい説教の末に見張りつきで過ごすハメになる。
そうして船は浜に到着、修繕後にノイシュタットにて合流するという約束の元、六人はリーネ村・スタンの妹リリスの家へとやって来たのだった。

「――いや、俺達はどーってことないです。それより、急に押し掛けちゃってリリスさんの方が大変かなって」

「あぁいいのよ。ここは見ての通り、何にもない村でしょ?たまにこれくらいのハプニングがあるくらいでちょうどいいのよ。まあ、兄さんはそれに耐えきれなくってここを出てっちゃったけどね」

急に断りもなく押し掛けてきたユカリ達を、リリスは嫌な顔一つせずに温かく迎え入れてくれた。青ざめた顔で眠るカイルに背負われたリアラを見るや、何も訊かずにベッドを提供してくれた程である。
そんなスタンの妹という彼女は、手入れの行き届いた長い金髪をポニーテールに結い上げ、笑顔に愛嬌のある女性だった。
…と、恐縮しながらも落ち着き無い仕草でそわそわしていたカイルが、場違いな話題と自覚しつつも口を開く。

「リリスおばさん、一つ、聞いてもいいかな。その…父さんの事なんだけど」

「わかってるわ。小さい頃どんなだったか、知りたいんでしょ?…そう………とにかく寝坊助さんだったわ。兄さんを起こすのはあたしだったから、毎日、そりゃもう大変だったの。大声で叫んだり、毛布を取ったり、ほっぺたをつねったり…でもね、それでも起きないのよ。…で、最後にはフライパンを持ち出して、お玉で乱れ打ちするの。"秘技・死者の目覚め!!"ってね」

「あー……………」

昔を懐かしむように、穏やかに微笑みながら語るリリス。そうして最後は、お玉でフライパンを叩く仕草をしながら楽しそうに、悪戯っぽく笑う。その話に何か思う所があるらしいカイルは、何やら急に気まずそうな声を上げている。

「あとは至って普通の子供だった。夢なんかも意外に小っちゃくて、お城の兵士になりたいなんて言ってたっけ」

「えっ!?英雄になりたいとは言ってなかったの!?」

「ううん、ぜーんぜん。本人が言うには、"いつの間にか世界の危機を救ってた"んですって。…ふふっ!"いつの間にか"よ?きっと世の中の人が聞いたらガッカリするでしょうね。でも、私は兄さんらしくていいと思うけどね」

「そっか、そうだったんだ………」

自分の知らない、父の過去。彼も自らと同じように英雄を目指していたのではなかったという話を聞いたカイルは、まさに期待を外されたような落胆を見せた。
父は子供の理想であって欲しいものだ。まして実際に英雄と呼ばれる実績があるからこそ、その過去も英雄然としていたのではと考えていたのだ。
そんな彼の気持ちには気付いているのか、いないのか。リリスはせっかくだから、他の村人達にも色々聞いてみたらどうかと提案する。

「でも、リアラが……」

「この子の事なら心配しないで。私がちゃんと看ててあげるから」

「あ。それなら私はここに残ってもいいでしょうか?」

「え?」

突然の声に、疑問の声を上げるリリス。そんな彼女に対し、一歩進み出たのはユカリである。

「実はもう一人、重傷な子がいまして…私はその子の治療に当たりたく思います」

重傷な子、というのは勿論、片腕が千切れたままのフィオである。浜への到着を優先したため、未だ彼女の治療は後回しになっていた。

「えぇっ!?…でも、どこに?」

「あぁ、重傷といってもこの子の事ですので…裁縫道具、お借り出来ますか?」

そう言ってユカリがポーチから取り出したのは可愛らしいウサギの縫いぐるみであった。見れば片腕が千切れて中の綿が飛び出している。

「あら、確かに"重傷"ね。じゃあ道具、持ってきてあげるわね」

そう言いおいてリリスはパタパタと奥の部屋へと入って行った。…そして。

「えっ!?えぇっ!?あれ?フィオはっ!??」

「おいおい、ンなどーでもイイもんより大事な事があんだろ。…まぁ、見かけによらずお前が可愛い趣味してんのは意外だったけどよ」

当然といえば当然の反応である。が、そこで冷静な声が一つ。

「……それがフィオの"本体"か。あの男の時も不思議だったが、あれだけの傷で血が出ていなかったわけだ」

「ご名答。…それとロニ。後で覚悟しといてね」

そう、この縫いぐるみこそが、フィリアが作ったフィオの"入れ物"であった。式神として魂を与える以前の、本来の姿。それが魂を与えられた事で、人の形を取るようになったのだ。
海の主・フォルネウスとの戦いで大きな傷を受けた後も暫く戦闘を続けていた為、姿を維持するよりも存在の保護を優先するために正体を晒していたのである。

「げぇ、…行くぞカイル!怒られるのはごめんだっ」

「ちょ、ロニ!?引っ張んないでよ!?」

慌ただしくカイルを引き摺って、ロニは家を飛び出して行った。

「あれ、骨っ子は行かないの……?」

「……またその呼び名か。居ると何か都合が悪いのか?」


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