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夜空を纏う銀月の舞
記憶の鎖7

「どういう事だ?」

「信じられないかも知れないけれど、これが私の真実の一つ。私は前の人生で12歳で殺されて、幕を閉じた。……そしてどういうわけか、意識をなくして目が覚めたら自分の肉体が赤ちゃんになっていたの。なんの冗談かと思ったけど、生憎冗談でもなんでもなかった」

『12歳って……!!』

「……短い、でしょ?死に方も最悪だったし……ごめん。これはあまり思い出したくない」

「……あ、ああ……」

「目に見える証拠をみせろ、と言われても難しいけど、……そうだ。これは今を生きていく内に気が付いて、生まれ変わった事に続いて結構衝撃だった事が、ある」

未だに唖然としている二人には少し酷な事実かも知れないけれど、これならある意味いい証拠になるかも知れない。

「前の私の生まれは"日本"という国の、京都という都市に近い場所にあるとある隠れ里。この世界の地図に……ううん、歴史自体に、そんな国も、都市もないでしょ?つまり、死んで生まれ変わったら異世界だった、という事」

それまでも殆ど硬直状態だった二人が今度こそ時間に取り残されたように凍り付いたのを、私はある種諦めの混じった笑顔で眺めていた――

――それからまた何拍か間を置いて、二人が呼吸を取り戻すタイミングに併せて続きを語る。

「……びっくり、したよね。本当、何の冗談?って、何度も何度も思った。記憶を持って生まれ変わった事もそうだし、この世界もそうだし……夢とか、幻とか、そんなだったら良かった。もうね、本当……私っていう存在自体がもう、質の悪い冗談みたいに思えて。もう一度死んだら、この悪夢も覚めるかな。あの時代の、あの場所に、あの子の傍に、帰れるのかなって……ずっと、塞ぎこんでた」

「……あの子、とは?」

「うん。……私にもね。血の繋がりはない、妹みたいに可愛がっていた子が居た。キミと、同じように。……これは私が幼くして死んだ原因にも繋がるんだけど。その子は私の里では稀少な、強力な能力者だった。私はその子を守るために仕えた、護衛の一家に生まれたの。……そして、ある戦で、私は護衛としてその子を守るために戦って…………殺された」

『そんな……』

「酷い、なんて言わないでね。私はその子を守る事に誇りを感じていたし、何より大事に思っていたから、守って死ねたなら本望だった。……あぁ、いつかキミが言ってたけれど、私がカイル達にダメ出し出来たのは、その時代の私が剣士だったから。……今でも条件付きではあるけど、ちょっとなら剣も使えるし」

「そう……だったのか」

未だにショックから立ち直れないらしい彼は、目を伏せて俯いてしまっていた。
……少し、語り過ぎたかも知れない。でも、これで。

「……こんなとこ、かな。これで、キミのまだ痛む傷を抉っちゃった事へのお詫びと、私を慰めてくれた優しさに対するお礼、……そういう事にしてくれたなら、嬉しい」

そう言って、私は彼に背中を向ける。なんだか、酷く自分勝手ではあるけれど。話してしまった事で妙に心が軽くなってしまっていた。この15年、誰にも話せないで抱え込んできた事だったから。……やっぱりフェアにはならなかったかも知れない。私だけが、彼に救われてしまっている気がする。

「……やっぱりごめん。重すぎた、よね。忘れて?」

だから、それだけを背中越しに伝えて去るつもりだった。なのに。

「お前が今、この時代に、世界に生きている事は、悪夢じゃない。お前は、幻ではない。上手くは言えんが、お前が今"此処に居る"なら……今"生きている"なら。それは幸せになるためなんじゃないのか。記憶を持っているのも、その過去を乗り越えて、より大きな幸せを得るために、より大きく幸せを感じられるように、必要な持ち物として与えられたツールだったんじゃないのか」

――――、この、人は……。

「その過去に、記憶に押し潰されそうな時は僕を頼れ。それが、これまで他人に明かさなかったお前の秘密を知った僕の責任でもあるだろう」

……どこまで、優しいんだろう。

「責任なんて、そんな事、感じなくてもいいのに」

「仲間、なんだろう?」

……それを今持ち出すなんて、

「……狡い、なぁ」

「お互い様だ。船酔いの僕をさらに酔わせると脅したのはお前だろう?」

「あは、そう、だったね。…………ね、もっかい、胸借りていい?」

「これきりと言っただろう」

「けち」

ぽすんと、軽く頭に柔らかい重みが乗る。そして、これで我慢しろとでも言わんばかりに優しく撫でられた。フード越しなのが、少しだけ惜しく感じる。

さざめく波の音と、歌うように響く海鳥達の鳴き声。時折軋む、船の木の音。広がる青空の下、私達はこうして"仲間"として一歩ずつ、互いに歩み寄る事が出来たのだった。
今日という日は、本当に、どこまでも澄んだ青空だった。

2015/04/06
2015/04/21加筆修正
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あきゅろす。
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