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夜空を纏う銀月の舞
記憶の鎖3

「あ!今あっちの方に怪しい人影が!」

「なにっどこだ!?」

「ほらほら、向こう!早く追っかけないと見失っちまう!」

「よし行くぞ!」

兵士達の背後・後方25メートル程の位置で、ひらりと身を隠すように参道の分かれ道へと消えた白いエプロンドレスを追い、慌ただしく兵士達は走り去って行った。

「ねぇロニ、どこ!?どこに居るの!?」

「あ〜……、なんかな、見覚えのあるアホ毛が兵士の頭上越えて後ろから飛んでったと思ったら、必死でジェスチャーしてるもんだから利用させて貰った。まぁこうでもしなきゃ、あいつらにしつこく聞かれてただろうな」

「大根役者はフィオに感謝すべき」

「ユカリ!」

兵士達が居なくなった事で身を隠す必要がなくなったので、岩陰から出て皆に話しかける。私を見たカイルは何故か物凄く嬉しそうだ。

「演技が下手過ぎて可哀想。主にロニ」

「いや可哀想なのはお前にぶん投げられたフィオじゃねーのか……?空中でバタ足してたぞ、泣きながら」

「怪しい人影って、フィオだったの?」

「そう、あの子に囮を頼んだから」

というか、バタ足とかそんな事して遊んでたならまだあの子結構余裕あると思う。

……と、トラブルから解放されてほっとした様子の二人と話していると、それまで頑なにこちらを向こうとしなかった骨っこが真剣な面持ちで問いかけてきた。

「何故庇い立てした?仲間だなどという嘘までついて」

それに対してのカイルの答えは実にあっけらかんとしていて、

「だってジューダスは仲間だもん。庇うのも、当たり前だよ」

と。それに骨っこの方は否定の言葉を口にしようとするが、すかさず割って入ったロニに遮られる。

「じゃあ聞くが、あんたカイルが"仲間だ"って言った時、黙ってたよな。仲間じゃないと思ってたら"違う"って、ハッキリ言う筈だぜ。あんたの性格ならな」

「それは、ただ単に言うタイミングがなかっただけで」

「それにさ、ダリルシェイドで別れた時に、なんか言いかけてたよね?あれって、"一緒に行こう"って言いかけたんでしょ?うん、絶対そうに決まってるよ!」

人を疑う事を知らなさそうな、眩いばかりの笑顔。
無垢な信頼、と言えばよいのか。又は前向き過ぎる思い込み、と言うべきだろうか。しかし今回ばかりはそれで良かったらしい。彼が築いていた厚く強固な壁は、しかし僅かにひび割れていた脆い部分を突かれ、ついに崩れ落ちてしまった。

「それは……。……さっきのように、またロクでもないことに巻き込まれるかも知れんぞ。それでも……いいのか?」

「英雄は困難を恐れない!むしろ、望むところさ!」

オレに任せろ、とどんと胸を叩くカイル。まったく、強引な子だ。似ているどころか、むしろこういうところはパワーアップしているのではないだろうか。あの彼がペースに呑まれてしまっている。

(…………ん?)

今、私はカイルを誰と比べたんだろう?このところ、妙な感覚に襲われる事が多い気がする。

「俺はこんな能天気な奴と一緒に旅してんだぜ?……つまり、最初っからロクでもないって事だ。今更ロクでもない事の一つや二つ、増えたところで構いやしねぇよ」

「困難に巻き込むという事なら、わたしも同じだと思います。だから、わたしは気にしません」

「……そして、そんなみんなを守るため、私もついていく。かいわれ大根の言を真似るわけじゃないけど、対象が一人二人、増えても変わらない」

「俺はそんなにヒョロくねぇよ!……つか、お前もついてくる気だったのか!?」

カイルに続き、受け入れる二人に私も同意する。というか、ついていく目的以外になんのために私がここに居ると思ったんだろうか。

「……バカ者どもが……。――、あとで後悔しても知らんぞ」

(向こうからは見えないだろうが、)冷めた目でロニを見上げていると、複雑そうな声色でぷいと再び背中を向ける骨っこ。

……だんだんわかって来た。この人がこうして顔を背ける時は、大抵照れている時だ。可愛いなぁ、もう。

「……あの〜、私も忘れないで貰えますぅ?」

と、追いかけて行った兵士達を撒いてきたらしいフィオが人間サイズで戻ってきた。

「お、さっきはありがとな。おかげで助かった」

「いえ、ユカリさまのご命令ですのでお気になさらず。……突然無表情で鷲掴みにされた時は流石に焦りましたけど」

「ごめん」

「大丈夫ですよー。ちゃんと着地点に風のクッション作ってくれてたおかげで怪我もありませんし。後は人肌で温めてくれればふぉっ!?」

「何言ってるのこの子」

口の中にポケットのクッキーを四枚ほど転送して詰め込んでやった。彼女はそのまま「あ、おいふい」と言いながら軽快な咀嚼音を響かせている。反省して欲しかったのに喜ばせてしまった。

「……もしかして、お前ら……」

と、何かを勘違いしたらしいロニが慄いたような表情で後退った。

「え。何」

「どっちもこの絶世の美男子である俺様に靡かねぇと思ったら"そういう"関係だったのか!?」

「違う。両方とも」

そういう関係でもないしどこにそんな素敵男子が居るの。
……いや、別に私は面食いというわけではない。が、少なくとも彼に"絶世の"、という冠は当てはまらないと思う。黙っていればロニもそれなりに整った顔立ちである事は認めるけれど……どうもフィオと同じ匂いがする。喋ると台無しな辺りが。


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あきゅろす。
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