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夜空を纏う銀月の舞
記憶の鎖2

空は快晴、突き抜けるような青の下。軽い山道となっているストレイライズ大神殿へと続く参道を、神殿とは逆の方向へと先行く少年達を追う少女が二人。
一人は空飛ぶ箒に座り、地上1メートルほどの高さで低空飛行する魔女。もう一人は、そんな彼女の左肩を指定席に腰かける身長15センチほどのメイド服を着た少女。二人は使い魔と主人、という間柄だ。

「ユカリさまユカリさま」

「なに?」

メイド服の少女・フィオから少し甘い色の声で話しかけられる。それに対して魔女の方はいつも通りの、抑揚に乏しい調子で返事を返す。視線は真っ直ぐ、進行方向を見据えたまま。

「ほんとに良かったんですか?フィリア様に言われるまま塔を留守にして」

「……あの人、ああ見えて一度言い出したら聞かない所あるから」

そう、ユカリが最初に塔を訪れた際にも、戸惑い遠慮するユカリを強引に言いくるめ、さらには神団の方でも反対を押しきって彼女を塔の管理者にしてしまったという実績がある。さらにいえば、18年前の騒乱の際にもその強い意志でもって才能を開花させ、ソーディアンマスターへとなった過去があるのだが、こちらはユカリの知る由はない。

「それにきっと、フィリアさんにはフィリアさんの考えがあって私達を送り出してくれたんだと思うよ」

「んー……」

ほんとに大丈夫ですかねぇ。と呟くフィオの頭を指先で軽く撫でてやりつつ、ユカリは心中にある予測を立てていた。

……あの男、バルバトスが去り際に残したという台詞……"餓えを満たす相手"、ね。言葉通りだとしたら。

そう、それが言葉通りであるとするならば、バルバトスはカイルをも自身の獲物に定めた事になるのだ。
つまり、常に危険の付きまとう旅に、さらなる危険が付加される可能性がある事をユカリは危惧していた。その不安を看破した上での提案でもあったのだろうと考える。

「私ってわかりやすいのかな……」

「はい?」

「ううん、なんでも。さ、もう少しスピード上げるよ。落ちないでね」

「何がわかりやす……うひゃうっ!?」

言うなり箒の速度を上げたユカリの肩の上で、ぐいと後ろに引っ張られるような感覚に慌ててフードにしがみつくフィオ。ここで振り落とされては追い付くのに一苦労である。

――そうして暫く進んだ先で、何やら揉めている様子の一団へと出会した。
それは一人神殿を後にしたジューダスを追ったカイル達と、ジューダス本人であった。カイルの正面には、何やら威圧的な態度の兵士が二人。なんとなく見付かると話がこじれそうな予感がしたユカリはフィオに目配せして箒を降りると、声が聞こえる程度まで近付いて岩陰へと身を隠した。

「――おい、お前達!この辺りで、怪しいヤツを見掛けなかったか?」

「神殿に賊が侵入したらしいんだ。何か知らないか?」

30代半ば、といった感じの兵士二人に話しかけられた所、ロニは「ぎくぅっ!」と口に出して大仰な反応を示した。端から観察していると、もはや小馬鹿にしているとしか思えない程あからさまなオーバーリアクション。

「何だ?何か知っているのか?」

「い、いえ!なんでもないです!賊ですかぁ、へぇえ、おっそろしいですね!」

……大根役者。

身を潜めているユカリとフィオは二人同時に思った。
白々し過ぎてかえって疑って下さいと煽っているようなものである。そして案の定、二人の兵士は訝しげな表情を見合わせると、背中にダラダラと冷や汗を大量に流すロニへと詰め寄り。

「そういえばお前達、今日は参拝の日でもないのに、何故こんな所に?」

「え、えと、あの……」

「い、いやぁ、なんか道歩いてたら迷ってこんな所に出ちゃって……居ちゃまずいんならすぐ消えますんで!それじゃ!」

「……おいちょっと待て!その後ろに立っている奴、何故こちらを見ない?」

大根役者は勢いで誤魔化そうとしたようだが、世の中そんなに甘くはない。そそくさと立ち去ろうとするところに、一人だけ兵士達に背中を向けて気配を殺していた少年が見付かった。

「……怪しい奴だな……、おい、こっちを向けと言っているんだ!」

10人に問えば10人が怪しいと答えそうなほど不審な格好(主に仮面)をした少年の肩に、自らの方を振り向かせようと兵士が手を伸ばす。しかし寸での所で、その間に割って入ったのは金髪の少年だった。

「ま、待って下さい!その人は、僕らの仲間です!」

「…………!」

息を呑む、仮面の少年・ジューダス。「仲間?」と訝る兵士に、はいと真っ直ぐに答えるカイルはその様子には気付いていないようだ。

「そうだよね、ロニ!」

「あ、えぇ、そうなんですよ。いやね、あいつなんか腹が痛いらしくて……なぁリアラ?」

「あっ、えっと……動くと辛いからって、ここで休んでたんです!」

「ホントか?」

お手玉のように話を振られ、運悪く最後尾に居たリアラはあわあわとしながら半ば強制的にロニの嘘を引き継がされる。
どう考えても不審そのもの、といった一同を見ていられなかったユカリは仕方なく助け船を出してやる事にした。

(……これ以上大根畑が荒らされるのも可哀想だから、フィオ、よろしく)

(え?ちょ、なに私を鷲掴みにし……うきゃぁああああっ!?)

二・三歩と助走からの、大遠投。


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