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夜空を纏う銀月の舞
ソロモンには届かない5

そこからまた30分程進んでいくと、何かを探すようにしてしゃがんで地面を眺めている少女に出会した。
淡い桃色のふわりとしたワンピースに、綺麗な装飾のついたカチューシャが栗色のショートカットによく似合う。とても可愛らしい女の子だ。

「ない……ここにも……どうしよう……」

見た目通りの、可愛い声。
カイルがその背中に声をかけるが、どうやら彼女は探し物に夢中でまるで気付かない様子。呟く声に涙が混じっている。

「ねぇってば!」

「はっ……!?」

反応がない彼女に、カイルが少しだけ強く呼び掛ければ、その声に驚いた彼女は漸くこちらを振り向く。そのつぶらな瞳にはうっすらと涙が滲んでいた。

「君、泣いてるの?」

「……なんですか?わたし、あなた達と話しているヒマなんて、ないんです」

誤魔化すように鼻をすすりながら涙をぐしぐしと拭った彼女に、ロニは落とし物を拾った事を告げる。それに驚くような声を上げた彼女に、カイルは笑顔でそれを手渡した。大事そうに胸にしっかりと抱いて、すぐに首へとペンダントをかける。

「おいおい、礼の一言もナシかよ?……泣いて探すほど、大切なものなんだろ?」

「あ……。……あり、がとう」

「なぁ〜に、困っている人を助けるのは、英雄として当然の事さ!」

照れながら笑うカイルに、英雄と聞いた彼女はペンダントを覗き込みながら「やっぱり違う」と呟いた。
……あのペンダントは、そういう識別機能でもついているのだろうか。

「拾ってくれたことには、お礼を言います。でも……もうわたしに関わらないで。それじゃあ」

「待って」

「………?あなたは?」

先を急ぐように駆け出そうとした彼女に、私は声をかけた。そこで漸く彼女も私の存在に気付いたようで、訝しげな視線を向けてくる。

「キミは、どんな道を選ぶの?」

「………道…?」

「そう、道。キミの進む、道」

「その格好……もしかして、あなたは」

「魔女」

「そう……。……でもあなたは多分、"魔"に属する人じゃない。質問に答えるなら、わたしの道は英雄を探す道。少なくとも、今は」

「……」

曖昧な答えは、まだ彼女自身道を定めていないのか。又は悟らせないよう濁しているのか。今はまだ判断に迷う。一瞬だけ游いだ目に、恐らくは前者であると推測は出来るが確信は持てなかった。

「わたし、急いでるから」

「ん。ありがと」

これ以上話を続けている時間はない、と今度こそ彼女はその場を駆け去っていった。本当はあと1つ訊きたいことはあったのだけど、どこか焦っているような素振りから今は訊かないでおく事にした。まぁ、それは今訊かずとも"その時"が来ればわかる事。彼女が敵となるか、そうならないのかは。

「……感じ悪ぅ、おいカイル。あんな女追っかける価値なんかないぜ?」

「いいや!あの子にオレが英雄だって事を、絶対に認めさせる!」

彼女の態度が気に食わなかったらしいロニは、腰に手を当てため息混じりに嫌悪を示した。カイルはカイルで、何か意固地になっている。

「ほらほら!急がないとあの子どんどん先に行っちゃうよ!」

ぐいぐいと私とロニの腕を引っ張るカイル。案外強い力に私が転びそうになる隣で、ロニは何かに気付いたように一瞬ハッとした顔をすると、次いで何やらうんうんと一人で納得し始めた。ちなみに彼は引っ張られているのにその場から微動だにしていない。……負けた気がしてちょっと悔しい。

「ロニ?」

「そうだよなぁ……わかるぜカイル。惚れた女の涙にゃ勝てねぇよなぁ……あんな可愛い女の子の泣き顔なんて見ちまった日にゃ、守ってやりたくなっちまうよなぁ」

「えっと……頭、大丈夫?」

「惚れた女には涙は流させない!これが男のロマンだぜ……クーッ!」

私の声が聞こえていない。カイルはなんだかロニの妄言に引っ張られたように「惚れた……女……」とか呟いてるし。あんまり一つ所で長居してると魔物が寄ってくるから移動したいんだけど、これどうしよう。置いてってもいいのかな?

「ちょっと、戻ってきて」

「よーしよしカイル、微力ながらこの俺様がいっちょ女を落とすテクニックってやつを教えてやろうじゃないか!」

――ぷち。

「いい加減にしないとこのまま落とすけど、何か言い残すことはある?」

「すみませんでした」

堪忍袋の緒が切れた私は、空気の壁で二人を仲良くサンドイッチさせるとそのまま空中に浮かせて地面のない場所まで移動させた。
青ざめた顔で声を揃えて謝罪した事に免じて今回だけは見逃してあげる。

「あんまり無視すると、女の子を落とす前にキミが崖から落ちる事になるから気を付けてね」

「はい、申し訳ございませんでしたユカリ様」

それから暫く、私から脅されたロニは震えながら至極真面目に道を進んだのだった。……少しやり過ぎた。ちょっと自重しよう。


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