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夜空を纏う銀月の舞
ソロモンには届かない4

足場の悪い谷底の道を、時に壁を伝い、時に跳びはね、場合によってはフリークライム等しながら進んでいく。
男子である二人が時に苦労するほどのこの険しい道を、本当に聞いたような華奢な女の子が一人で通っていけるのだろうか、とユカリは心中密かに首を傾げていた。

……やっぱり、何かしら特別なチカラを持っているのかも知れない。

例えば、自分の巫術のような。
例えば、あの聖女と崇められる分御霊の"奇跡"のような。
そうでなくば、もし普通の女の子がこの道を同じように辿ったとして、無事でいられはしないだろう。ただでさえ険しい道程に加え、この渓谷を住処とする魔物も数多く現れるのだから。
つい先程も硬い鉱石の身体を持つゴーレム種や、人の頭と胴体に鳥の翼と脚を持つ鳥人種など、厄介な連中と一戦交えたばかりである。
地上戦は男子二人に任せ、空中戦はユカリが担当としているのだが、いかんせん場所が不利だ。未熟な二人は何度か足場から落ちそうになったり、躓いて体勢が崩れたところを狙われたりと、厳しい戦いを強いられている。二人が足を踏み外したり、敵に吹っ飛ばされたりする度に空気を固めて足場を作ってやったり壁を作って落ちないようにしてやったりとフォローに気を取られると今度は自分が危ない目に遭うという、負の連鎖。
環境がもう少しまともであるなら、これ程苦戦する相手ではないのだが。

……と、慎重に先へと進んでいく中。ロニが少し離れた場所で何か光を反射するものを見つけた。

「なんだありゃ?」

近付いた彼がそれを拾い上げてみると、ユカリとカイルは同時に「あ」と驚いたような声を上げる。

「これ、あの子がつけてたペンダントだ!」

「…………」

「崖を降りたりしているうちに、落としたんだろうな」

「きっとそうだよ!……あの子がつけてたペンダントをオレが拾うなんて、やっぱり運命だよね!」

はいはい、んじゃお前が持っておけとロニがカイルにそれを手渡す中、私は自分の中で一つ確証を得たと同時に驚いていた。

……やっぱり、普通の子じゃない。あのペンダント、エルレインが下げているものと同じものだ。封入されている力がいい証拠。彼女がこんな場所を出歩くとは考えられないし、カイルが言う"あの子"のものだとしたら。それは"聖女"が複数存在している事になる。
聖女は、人々に救いをもたらすために生まれたとエルレインは言っていた。……が、彼女のやり方は酷く一方的で、傲慢で、押し付けがましい。あんなものは救いとは言えないし、絶対認めない。何より分身体に任せて自分は陰でふんぞり返っているだろう本体が何より気に食わない。神だかなんだか知らないけど、コソコソと裏で糸を引くタイプは過去の経験からロクな奴じゃないからだ。
もし、その子がエルレインやその本体と同じ思想であるならば、少なくとも私は仲良くなれそうにない。謎の運命を感じているカイルには悪いけれど。

「お〜いユカリ?どうした、急に固まってぶつぶつ言って」

……と、しまった。また思考の海にトリップしてしまっていた。

「具合悪いの?……ごめん、さっきから戦闘でオレ達が足引っ張ってるから、負担かけちゃってるよね」

「ううん、そんな事ないよ。ごめんね、ぼうっとしてて……悪い癖なの」

元気だから気にしないで、と言えば、カイルは良かったぁと心底ほっとしたように笑顔を浮かべた。

「もし本当に具合悪いなら遠慮なく言えよ、女の子一人くれぇならおぶってやるからさ」

「え。い、いいよ、大丈夫だから」

「気にすんな、いっつもカイルをおぶって慣れてるしよ」

「ロニ!余計なこと言うなよ!それじゃオレがしょっちゅうロニに甘えてるみたいじゃんか!」

「はぁ〜?誰だっけ?つい何日か前に俺におんぶされてクレスタに帰った奴は?」

「わぁ〜っ!!やめろよ!」

わたわたと慌てるカイルの頭をわしわし撫でるロニ。本当に仲の良い兄弟だ。
それに、案外親切で面倒見がいい。少しロニの評価を見直してあげてもいいかも知れない。

「ロニって、実は結構ちゃんとお兄さんしてるんだね。ただの軟派な人だと思ってた」

なんせ塔や神殿で見かける度に女の子を手当たり次第に口説いてはフラれ、を繰り返していたのだから。

「ひでぇ評価だなそれ……ユカリもお兄ちゃんって呼んでくれてもいいんだぜ?」

「それはイヤ」

やっぱり考え直そうかな。すぐ調子に乗るからプラマイ0って事で。

「美少女の妹をゲットするチャンスだと思ったのに……ちくしょう」

「ルーティさんもそれ言ってたけど、私の顔なんて別に特別可愛くない。それに私はどっちかといえばお姉ちゃんだから妹にはなれない」

遠い昔の、可愛い可愛い妹分でもある主を思い出す。今は懐かしい前世の記憶。

「お姉ちゃんねぇ……そのちみっこいナリじゃ説得りょアダッ!?」

「うるさい。いいから黙って先歩く!」

杖の先端で思いっきり殴る。気にしてるんだから余計な事言わないで欲しい。

そうして私達は引き続きハーメンツヴァレーの道を再び進みだした。


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あきゅろす。
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