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夜空を纏う銀月の舞
魔女v.s.魔女ではなく。2

見上げる夜空に、満天の星。薄い月明かりに照らされ、人気のすっかりなくなった街の道を行く少年と、青年と、少女。一人は金色の跳ねた髪が特徴的な少年、カイル。青年の方は、短く切った銀髪に褐色肌の長身を持つ、ロニ。この二人はともに同じ孤児院で兄弟のように育った"デュナミス"の姓を持つ家族だ。
そして最後の一人、薄暗い闇夜に溶けるような漆黒のローブを纏い、深く被ったフードの隙間から銀糸の長髪を垂らしている魔女・ユカリ。彼女はロニの腰程の高さに浮遊させた箒に横座りになって青年の横を飛んでいた。

「ふうん、二人とも孤児院育ちなんだね」

「まぁな。……あぁだからって、同情とかはゴメンだぜ?」

「ん。まぁ私も早くに両親を亡くしてるって意味では、同じ。おかげで早々と半分だけど独立することになったし。……でも、"可哀想な子"なんて目で見られたくない。それに、あなた達を見てればわかる。決して"不幸"なんかじゃなかったんでしょ?」

「あぁ、まぁな。スタンさんもルーティさんも、立派な"両親"だ……と、悪い」

隣で浮いてる少女が息を呑んだような様子を見せた事に、ロニは自分の発言を反省した。両親はなく、養親も居ないような発言をしていた少女に対して嫌味になってしまったと思ったのだ。

「あ。大丈夫、謝らないで。私が驚いたのはそこじゃない。……スタンさんと、ルーティさんって?」

「ん?あぁそっちか。カイルの両親でもあるデュナミス孤児院の主人は、あの四英雄の内の二人だ。知らなかったのか?」

「ううん、フィリアさんから二人が孤児院を経営してるって話は聞いてたけど……院の名前までは聞いてなかったから。じゃあ本当にカイルは英雄の子供なんだ」

ユカリは自分達の数歩先で枯れ枝を振り回しながら上機嫌で歩く少年を見やる。ロニは頭の後ろで手を組んで歩きつつ、苦笑いを漏らした。

「ま、あの落ち着きのなさからじゃ想像も出来ねぇかも知れねぇけど、よ」

「……ふふ。確かにね。でも、そっか。だから英雄に拘るんだね」

少しだけ声の調子が暗くなったことにロニは眉をひそめる。普段が平坦な口調のためわかりにくいが、少年の事に関する話題であるせいか、敏感に感じ取ってしまったのだ。

「どうかしたか?」

「……ううん。少しだけ、私と重なってるように感じただけ。彼の方が多分、私より大変だと思うけど」

「あ?そりゃどういう……?って、いつの間にか着いちまったか」

気が付けば目の前には広い敷地に大きな建物があった。とはいっても、富豪が住むようないかにも"屋敷"然としたようなものではない。そこそこに歴史を感じさせるその建物は、乱暴に言ってしまえば古ぼけてぼろぼろな、という表現が当てはまる。敷地も広いとはいってもせいぜいがいくつかの遊具が置いておける程度の庭がある、といったものだ。ふと脇を見れば『デュナミス孤児院』と書かれた木製の看板が地面に突き立っていた。

「明かり、ついてるね。往復ビンタ確定おめでとう」

ぱーん、と小声でクラッカーを鳴らす真似をするユカリにジト目を送りながら、ロニはカイルをこちらに呼ぶ。カイルはいかにも気まずそうな顔をして背を丸めていた。

「どうするカイル?旅に出る話、言いづらかったら俺が代わりに……」

「ダメだよ、ロニ。オレ、自分で言うよ。そうじゃないと……いけないと思うんだ」

弟分を守りたかったらしいロニの提案を、カイルはきっぱりと断った。が、それは想定の範囲内であったらしく、ロニはあっさりと引き下がるととっとと言ってこいと背中を叩いている。

「その前に往復ビンタ……」

「おおお思い出させないでよっ余計キンチョーしちゃうだろ!」

いい雰囲気をユカリはぶち壊した。余程楽しみなのか、気持ち声が弾んでいる。ここに帰ってくるまでの道で、二人の思い出話に出てきた気絶するほどのビンタの威力に興味津々らしい。なんだかわくわくしているようにも見えた。
……と、玄関先で騒ぎ過ぎたせいだろうか、不意に建物の扉が開き、中から綺麗なショートカットの女性が姿を現した。

「何よこんな夜更けにうっさいわね……って、カイル!!」

女性はカイルをその視界に認めると、途端に彼を一喝した。呼ばれた本人の少年はびくぅ!と肩をはねさせ、恐る恐ると女性の方を振り返る。

「た、ただいま……母さん」

「あんたって子はこんな時間まで……!ロニ!!あんたがついていながらこれはどういう事よっ!?」

「……ひぃっ!!すすすすみませんルーティさん!これにはふかぁーいワケが……」

「言い訳無用!!カイルと一緒にそこに並びなさい!!………って、あれ?そこの浮いてる子、あんたは?」

それまでの爆発したような怒りはどこへやら。ルーティと呼ばれた女性はロニの後ろで箒に座ってふわふわ浮いたまま呆気に取られている少女を見ると不思議そうな顔をする。

「あ、母さん、その人はユカリっていって、新しく出来たオレの友だ

「あんたには訊いてないっ!!」

ごめんなさいっ!」

シュンとする少年。お怒りが収まったわけではないらしい。

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