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夜空を纏う銀月の舞
その出逢いはきっと。6

カイルが放射したソーサラーリングの熱に反応し、通路を隠していた壁の一部が音もなく"開いた"。どうやら壁だと思っていたそこはドアノブのない扉のようなものだったらしく、四人を招き入れるかのように口を開けたのだ。
奥に伸びる階段を降りて先へ進むと、次第に黴たような独特の匂いが強くなってくる。そうして辿り着いたそこは、巨大な地下水路だった。
カイルが広がる空間を物珍しげに見回し、ロニが水路の匂いに顔をしかめる中。少し後ろの方からやたらと苦しげな呼吸音とともにかつん、かつんと何かを打ち付ける音がゆっくりと近付いてきた事に、骨仮面の少年・改めジューダスと名付けられていた少年が気付く。

「…………」

ぜひゅー、ぜひゅーと喉を鳴らしながらのそりと姿を現したのはユカリである。

「ま、……まって……ってば……」

ふらふらしながら杖にしがみついて歩く様はなんというか……魔女というよりはただの老人だ。呆れた視線で待つジューダスの元へと漸く辿り着いたユカリは、力尽きたようにその場に崩れ落ちる。

「は……はふ……、みんな、歩くの、はやい……」

「……まさかとは思うが、お前、たったこれだけの距離でへばったんじゃないだろうな」

言ってはみたものの、彼女の様子は全力でそれを体現している。彼はもはや呆れて溜め息すらも出なかった。

「引きこもり歴5年を、甘くみないで……」

「いくらなんでも体力無さすぎだろう。そんなザマでよく行商になぞ出られたな」

「ほっといて。あんな、階段を延々と、何百、段……も、降りた事なんかないから。……それ、に、行商に、は、歩いて出てるわけじゃ……ない……」

呼吸すらも辛そうだ。だが、こう簡単にへばられてはこの先へなどとてもじゃないが進めない。ユカリの様子に気付いたカイルとロニともどもどうしたものかと困っていると、やがて呼吸を整えたユカリ自身が解決した。

《  空舞  》
「エア・ライド」

ついていた杖を使い、まるで箒で地面を掃くような仕草をユカリがすると、瞬く間に杖が光の粒子に砕けて箒へと再構成される。その箒を水平に宙に浮かべたユカリが横座りに腰を下ろしたのだ。

「ぉぉおおおっ!すげー!魔法だ!魔女の空飛ぶ箒っ!」

目の当たりにしたカイルは大喜びだ。その目の輝きは純真な子供のまさにそれである。

「行商にはこれで出ているの。鳥より速く飛べるし、何より楽」

「……なるほど、な。だが少しは鍛えろ。あまり怠けていると太るぞ」

「なっ!!!?」

容赦ない一言にうちひしがれるユカリを尻目に、ジューダスは問題は解決したと先を歩き始めた。仮にも乙女に向かってなんという……!と恨めしげに背後からぶつけられる視線もなんのそのである。
そこからまた少し進んで行くと、灯されていた明かりもなくなりいよいよ水路は真っ暗となる。ほんとに出口へ続いているのかと訝るロニに、仕方ないとユカリは手荷物からレンズ動力のランタンを取り出すと、明かりを付けて箒の先に吊るして道を照らした。

「……そこは魔法とやらじゃないんだな」

「こんな事にいちいち使ってたら、ふり……魔力が勿体ないから」

「…………、そうか」

地上1メートル位の高さをふよふよと浮遊しながら隣を進むユカリに問うたジューダスは、彼女の答えに一瞬だけ片眉をぴくりと反応させる。しかしこの暗闇でそんな仮面の下の動きには気付ける筈もない。

――水路の中には、やはり水棲の魔物が多く現れる。魚や貝に寄生したタイプや、なんらかの水分を体に持つスライムなどだ。他にも大きな街の地下、ということで鼠型なんというものも居るが、総じて彼らの危険度は低い。人を見れば襲ってくる程度の凶暴性はあっても、素体になった動物が大したものではないからだ。……だというのにも関わらず。

「うわぁ!?意外に強いぞこの鼠っ!?」

「こ、のっ!ちょこまかと…痛ェ!」

魔物化して四肢が人のように発達したウェアラットの群れに手こずるカイルとロニ。カイルはただ闇雲に剣を振り回して(いるように見える)は遊ばれるように回避され、ロニはそれなりに考えてはいるようだがいかんせん武器である斧槍に振り回されている。おかげで隙だらけの所にボディーブローなんか貰う始末。情けない限りである。

「あぁ、なんか見てて可哀想」

「お前は余裕だな」

キミもね、と返事ついでに空圧の塊を落として襲ってきた鼠を叩き潰すユカリ。ジューダスはただの一振りで手軽に斬り捨てている。

「カイルに剣の師匠はいないのかな……あぁ、ロニ、そんなふらふらしてたらまた……ほら痛いっ!」

前方で後頭部を強打されたロニに合わせるようにユカリが声を漏らす。

「もう、カイルは基礎から駄目。型もめちゃくちゃ、足運びはバラバラ、何よりなんにも考えてない。ロニは……うん、重い武器使うならもっと鍛えなきゃ」

「ほう、魔女のわりに、随分と武術を見る目があるんだな。カイルの方はともかく、ロニの方は素人目にはふらふらなどしているようには見えない筈だ。武器の重心がわかってない、と言いたいんだろう?練度を高めろ、とな」

……あ。しまった。別に剣が使える事を特別隠してるわけじゃないけど、剣士だった前世からの癖でつい指摘してしまった。

「…………」

上手い言い訳が思いつかない。


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あきゅろす。
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