夜空を纏う銀月の舞
その出逢いはきっと。4
ズドンッ!!と凄まじい音を立て、ユカリを閉じ込めていた地下牢の鉄扉は中央を丸くへこませながら吹っ飛んだ。相当な重量のあるそれは勢いよく対面の石壁へと数センチ程埋まり、激突した壁の破片が弾丸のように飛び散る。
それを見届けたユカリが安全を確かめつつ狭い廊下へと出ると、呆然とこちらを見て立ち尽くすお隣の住人達と目が合った。
「……。こんにち、は?」
昼か夜かいまいちわからないので曖昧になってしまったが、とりあえずはご挨拶。地下牢になっている部屋に直結する形の資料室に妙な空気が流れる。
「お、おぅ……何故疑問系?……って、ゲェッ!?お前はっ!!」
「あ。早撃ちの人」
見知った顔だった。私を見て一際大きな反応を示した褐色肌に長身の青年・ロニ。一時期フィオに言い寄っていた、彼女曰く"早撃ち"で"短い"らしい人。何が早撃ちで短いのかはわからないけど……気が短いとか?
「違ェよっ!!やめろその呼び方!!」
やっぱり気が短い。呼んだだけで怒られた。……と、その後ろから視線を感じて憤慨している青年の背後を覗いてみると、そこにも知り合いが。
「やっぱり骨っこだ」
「まだその名で呼ぶ気か…いや、もういい。だからあれだけはやめろ。話が進まん」
だって名前教えて貰ってないし。ていうか、流石にもうあそこまでツボにははまら……ぷふっ。そっちこそまだ変な骨被ってる癖に。
相変わらず彼の背後で従者のように立っている幽霊のお兄さんに手を振ると、何やら唇に指を当てて拝まれた……もしかして、存在を隠しているのだろうか。まぁあまりおおっぴらに言うものでもないから、秘密にしておいてもいいけれど。
「え?ロニもジューダスも知り合い?仲間外れにしないでよ!」
ひょい、とロニの横から顔を出した、金色の髪がツンツン棘のようにハネている少年。まるでハリネズミみたいだ。
「……だれ?この子」
「そいつはカイルと言うそうだ」
骨っこが紹介してくれる。相変わらずぶっきらぼうな物言いだ。
「んじゃこっちは俺様から紹介しよう。カイルよく聞け、なんとこの方は、かの有名な"蒼銀の魔女"、ユカリ=トニトルスちゃんだ!!」
ばーん!と効果音を口で言いながら私をずい、と前に出すロニ。いい年して恥ずかしくないのだろうかこの人。気軽に肩に乗せられた手をぺし、と叩いて払いのけておく。
「二つ名とかちゃん付けとかやめて。そんな年じゃない」
「へぇー!凄い、魔女!?オレ初めて見た!!さっきの扉壊したのも、もしかして魔法なの!?凄い凄いっ!そんなに小っちゃいのに!」
……むかっ。多分悪気はないんだろうけど、初対面で色々失礼だ。あと一回失礼な発言したら、今後のこの子のためにも罰を与えよう。
大袈裟な程大きな反応を示したその少年は、近付いて私の正面に立つと頭から爪先までじろじろと遠慮会釈なく観察してくる。一体この子の親はどういう教育をしているのだろうか。
「君、ユカリって言うんだよね。多分オレより年下だと思うけど……12歳くらい?」
「はいあうとー」
「おぎゃっ!?」
面白い声を上げて少年、改めカイルは頭を抑えて踞った。何故なら私が杖の固く丸まった部分で殴ったからだ。
「キミ、さっきから色々失礼。仮にも初対面の相手に向かって身体の事は言うわ、じろじろ見るわ、女性に年齢訊くわ……0点。落第決定。そして私はこう見えても実は27歳」
前世から足しての精神年齢、だけど。
「嘘ぉ(だ)っ!?」
それを聞いた目の前の三人は全員声を上げて仰天していた。幽霊のお兄さんはぎりぎり声を出さずに済んだようだけど……ここは"今の"年齢を答えるべきだっただろうか。
驚かせてやろう、という狙い通りの反応に満足しつつ少しだけ反省していると、いち早く正気に戻ったらしい骨仮面の少年が「世間話は後にするぞ」と先を歩き出した。……そういえば、一応脱獄の最中だったんだっけ。
前を歩く彼は何やらぶつぶつと独り言を言っているように見えるが、実際の所は幽霊のお兄さんと小さくやりとりしている。長い付き合いなのだろうか。
そんな風に考えていたらロニが私に話しかけてきた。
「なぁユカリさんって、その、マジで27歳?」
「うん、と言ったら?」
「ボクと結婚していただけませんかっ!?」
「残念でした。ほんとは15歳。未成年。よって早撃ちの人はロリコンの人に昇格」
Noooooooゥ!!!!と小声で叫ぶという器用な芸当をこなしつつ悶絶するロニを無視して骨仮面の少年に追い付く。
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