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夜空を纏う銀月の舞
その出逢いはきっと。3

彼女は、私と亡くなった彼女の友人を重ねて見ている。クノンという、今では薄幸の騎士姫と呼ばれる少女を。……きっと、彼女はまだ友人の死を乗り越えられてはいないのだろう。
そしてその推測は彼女の周囲の人間、主に四英雄と馴染みの深い人間達の私の顔を見た時の反応で確信に変わった。
どうやら私は、生前の私自身だけでなく、その少女にも似ているらしい。誰かが言っていた、「世の中には自分と同じ顔が三人居る」という根拠のない与太話がまさか自分に当てはまるとは思わなかったけれど。
おかげで、今ではそんな反応が鬱陶しくなって顔を隠すようになってしまった。なんせ会う人会う人皆が私の顔を見てギョッとした反応をするのだから嫌になる。こんな貧相なナリでも一応、私だって女だ。わかっていてもそれなりに傷付く。

「ユカリさま、タオルをお持ちしました」

「ん、ありがと」

顔を洗っている間にフィオが肩から降りてタオルを持って来てくれた。ちなみに彼女は制限はあるけれどサイズが自由自在だ。本体の人形サイズから私の身長の10センチ近く上まで、彼女自身の意志で変化出来る。

「それとも私のエプロンで拭きますー?」

「残念。もうタオルで拭いてる」

……言動が残念なのは本当に勿体無い。せっかく綺麗な顔なのに。

エプロンドレスのスカートを持ち上げてばっちこーい!なんて言ってる彼女を無視して着替え、いつものようにフードを目深に被る。寝台の脇に立て掛けていた杖を持ち、昨夜の内に荷造りしておいたリュックを背負って準備万端。

「じゃあ夜には戻るから、留守番で司書代理、よろしく」

「……え?夜になったら一緒のベッドで一晩すゴッフ!!?」

とんでもない事を言いかけたその口の中に、読みかけの文庫本を転送して黙らせた私は塔を後にした。

私は半月に一度いくつかの定期契約した家々を訪ねて回り、ダリルシェイドをはじめとした近郊の街や村へと赴き自家製の薬を販売して回り生計を立てている。実家で母が存命だった頃に仕事を手伝うために覚えた知識を元に、さらに塔の書庫で学んで研究したのだ。一応その効果は上々のようで、評判もそれなりだった。
売り込みに行き始めた当初は、やっぱりこの格好からしてかなり怪しまれはしたものの。そこはフィリアさんの勧めもあって、サンプルを試してくれた人々を中心に口コミで拡がっていった。ちなみにブランド名は「ウィッチ製薬」。……そのまま過ぎとかよく突っ込まれたけど私はめげない。

そう、今日はこの定期販売の日だった。アイグレッテでの契約分を済ませて、ダリルシェイドへと辿り着き。商品を並べ終えた所でお昼ご飯を食べようとお弁当を広げた時だった。
なんと、こともあろうか並べた商品の幾つかを、「胡散臭ぇ」とか言って蹴っ飛ばして台無しにしてくれた輩が現れたのだ。
お腹が空いてたせいか、自分でも珍しく一瞬で頭に血が昇った私は、思わずそのチンピラを空圧の球でぶっ飛ばしてしまった。……その後は言わずもがな。騒ぎを聞き付けてきた巡回の兵士に捕らえられ、あえなく御用。反省を促すためとして小動物を投げるように牢獄に放り込まれ――今に至る。

「あぁ、おなかすいた……結局お弁当食べ損ねたし……」

思い出したら空腹が復活してしまった。せっかく回想に浸って現実逃避してたのに失敗した。
にしても今は何時だろうか、仕事に関しては全く心配はしていないが、もしかしたら暇に任せて私の箪笥を漁る恐れのある子が居る。下着が無事ならいいけれど。
そのうちフィオには煩悩を消すために滝行でもさせようか、などと思いつつもそりと身を起こす。ここに居るのも飽きたし空腹がいい加減限界だ。それに下着が心配で仕方がないので脱出することにした。
と、お隣さんが再び賑やかになってきた。なんだろう?と壁に耳を当てると、何やら聞き覚えのある声が聞こえる気がする。そうしてから僅か数分、突然ザキン!!と金属が擦れ合うような音がしたと思うと、どすん、と重たい物が倒れる音が続く。

「ジューダスすげー!!」

少年の声だ。それも結構活発そうなタイプ。

「この程度、造作もない」

出来て当たり前、どうしてお前は出来ないんだとでも言いたげな声が、活発そうな声に答える。やっぱり聞き覚えがある。……もしかしたら。

お隣も脱出したみたいだし、ちょうどいいから私もご一緒しよう。

そう思った私は杖に巫力を込めると、少し離れた場所から鉄扉に向けて空圧の砲弾を撃ち放った。斬鉄程度なら私でも出来るけど、お腹が空いて力が出なかったのだ。


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