[携帯モード] [URL送信]

夜空を纏う銀月の舞
心に抱いたもの6

「せやぁあああああっ」

裂帛の気合とともに繰り出される頭上からの大剣の一撃を、僅か数センチほど体を横に移動させて最小の動きで回避。
次いで大振りの後の僅かな硬直、その隙を狙い相手の兜越しの側頭部に横薙ぎの峰打ちを叩き込んで昏倒させる。

「次!」

その声とともに飛んできた鋭い矢の一閃を叩き落し、放った弓手へと間合いを詰めていくがそうはさせまいと次々と連射された矢が飛んでくる。
が、それも一本たりとも体に掠める事すらない。刀の間合いに入ったと同時に全て斬り捨てているからだ。
慌てた様子で弓手も距離を取ろうとさらにけん制の矢を放ちつつ走るも、こちらの方が速い上に狙いが甘すぎてこれらに対しては刀を振るうまでもない。
あっという間に懐へ入り、その手の弓を弾き飛ばし鳩尾に柄の一撃を入れて沈める。

「次!」

呼ばれて前に出た大盾と槍を携えた巨躯の騎士へと吶喊。
突き出された槍の下から刃をぶち当てて軌道を逸らし、二撃目は撃たせないとばかりに高速で斬撃を放つ。
たまらず構えた大盾の背に身を隠したことでこちらへの視線が途切れた瞬間を狙い、死角へと回り込んでは巫力で身体強化した脚にて甲冑に覆われた背中への回し蹴り。
それをモロに受けた騎士は数メートルほど地面をゴロゴロと転がっていく。

「次!」

――あの後ウッドロウさんから出された提案はこうだった。

「我が国の兵と、共に訓練してみてはくれないか?」

――と。

理由を聞いてみれば、まず現状としては襲撃で受けた被害への対処に今しばらく時間がかかる事。
その対処の間、ハイデルベルグ周辺の魔物対策に充てる人員がどうしても削られてしまう事。
その為、まだ練度が低く外の魔物討伐へは派遣できない者達も駆り出さなくてはならなくなる可能性があるが、そうなると討伐の失敗や死傷者をいたずらに増やしてしまう危険が伴う事。
さらに言えば、それが可能である者達も先の襲撃で実力不足を痛感し、さらなる鍛錬を積まなければならないとの進言があった事。

これらを解決するには現状、やはり人手が足りない。
被害への対処は、大臣など要職に就いている者達でなければ対応しきれない。
被害状況の報告書の処理や壊された場所の修繕の指示、殉職した者達や遺族への対応等々、それらを解決しつつ騎士団の者達へも細かな仕事が通常のものに加えて新たに割り振られていくのだが、
振られた仕事を各分隊ごとに決めたり取りまとめて処理を行うには隊長達の協力が不可欠。

そして兵を鍛えるにはその隊長達やそれに次ぐ実力者達が必要だが、彼らは一般兵の鍛錬にまで割く時間の余裕がない。自らの仕事や鍛錬で手一杯なのだから。

そしてそんな状況で。
    ・・・・・・・・・・・・・・・・
なんとも都合良く隊長達以上の実力を持った魔女がいるではないか、と。

そんなわけで私は今、ハイデルベルグ城の中庭、兵達の訓練場にて騎士団の皆さんと鍛錬の真っ最中なのである。
私と手合わせをしている者達の大多数は、外の魔物討伐へは行けない者達。
けれど、私は現段階での彼らの実力を知らない。知らなければどう向き合えばいいのかがわからない。
という事で、今は彼らの実力を知るために一人一人と手合わせをしているのだけど……

最後の一人、長剣使いの兵が膝をついたところで手合わせは終了。

ここまでで手合わせすること78人。さすがに疲れた。
……とゆうか、記憶が戻って手合わせしながら体の使い方を慣らしていったおかげか、継戦能力がだいぶ戻ってきた感じがする。
基礎体力も旅を始めてから鍛え直していたおかげだろうけど、身体能力強化のレベルもいままでの比じゃない。18年前よりも今の方が効果は確実に上だと言える。
それでいて体への負担が思ったよりもだいぶ少なくなっている。
何て言えばいいのか……妙に体が馴染む気がする。

いままでの身体強化は、生体電気の操作によってある意味”表面的に”力を纏っていた状態。
それが今は、これまでのに加えて巫力が直接体の細胞一つ一つに浸透して根本から能力を底上げしているような感覚。
肉体自体がより強靭に強化された分、走らせる生体電気のレベルも数段上昇させることが出来ている。
勿論、旅に出る前のようなヒキコモリの貧弱な体だとこうまで強化できないし、負担にも耐えられないだろうけれど。

それにやっぱり巫力の総量がケタ違いに増えている。
もしかして”あの時”、姫がわたしの魂に何かしたのかもしれない。
もしくは、記憶を取り戻した事が引き金となって魂になんらかの変化が起きたか。……例えば、記憶の引継ぎによるその記憶当時の力の継承がなされた、とか。
巫力の増大に関しては幾つか条件があるのは知っているけれど、そうでもなければ説明がつかない位にいきなり増えすぎている。

――と、そんな自己分析をしていると、最後に相手をした長剣使いの青年が、仲間に肩を借りて立ち上がったのが見えた。

「魔女って術攻撃だけだと思っていたのに剣を使えるってだけでも驚きな上、その強さはちょっと反則じゃないっすか……?」

青年に肩を貸していた弓手の男性……長剣の彼よりもほんの少し年上と思われる兵が苦笑いしつつも話しかけてくる。

「そう?術師でも接近されたらただの的、じゃあ足手まとい以下。近接での戦闘手段は持ってて当たり前だと思いますが」

「……遠・中距離職としては耳が痛いっすね……ていうか貴女の場合、剣が本職だって言っても誰も疑わないと思うっす」
   いま
「一応現世は魔女を名乗っている通りに魔法戦が主力ですよ。でも今回は術師の方はいらっしゃいませんでしたし、皆さんの実力を正確に測るには私も剣の方が良いと判断しましたので。……それに、」

「それに?」

「下手に魔法で相手をした場合、ちょっと命の保証が出来かねますので」

巫力が急に増えすぎたせいで上手く加減できるかすごーーーーーーく不安なんだよね……今度外の魔物相手に練習しておかないと。

「ぜひ剣だけでお願いします」

「ん」

だけ、のところをイヤに力強く強調されてしまった。なんか、ごめんなさい。

「とりあえず、今回の手合わせで皆さんの実力がある程度把握出来ました。それを踏まえて、気が付いたことなどをお教えしていきたいと思います。勿論、それに対しての反論やご意見などがあれば遠慮なく申し出て下さい。
私自身まだまだ修行中で至らない所が多々あるのは重々承知してますので、私への助言などもいただければありがたいです。短い期間になると思いますが、お互い高めあっていければ嬉しいです」

私の言葉に、騎士団の皆さんは力強く頷いてくれた。
手合わせに入る前は私との合同訓練に懐疑的な視線が圧倒的に多かったから不安だったけど、実力を示した事で一応は納得してくれたって事なのだろうと思う。
まぁ、考えたら当然だと思う。
こんな身長も低い上に女、さらにあからさまに術師です!みたいな恰好の不審者といきなり合同訓練をしろーなんて言われたって普通は受け入れられないだろうし。
いくら国王の命令だからといっても、足手まといが追加されたんじゃたまったものではないだろう。
だから多少無理をしてでも早々に実力を見せる必要があった。
負ける可能性も考えてたけれど、元々魔物討伐に出られない程度の実力だという情報に誤りはなく、結果は78連勝。……多分、彼らより今のカイルやロニの方が数段強いと思う。

兎にも角にも、これで予定通り彼らを鍛えることが出来そうだと一安心した私は、兵達への助言を始めていくのだった。

[back*][next#]

6/8ページ

[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!