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夜空を纏う銀月の舞
英雄の影4

数時間後、闘技場で聞いていたような高位の魔物にも出会す事もなく、無事に目的地であるハイデルベルグへと辿り着く事が出来た。
周囲を高く頑丈な城壁に囲まれた都市は、南・東・西と三方の門によってのみ入る事が出来る。
これらは近隣に住まう魔物の侵入を頑なに拒み、またよからぬ事を企む者を排除する役割を持つ。
限られた場所からしか街へは入れず、またそれぞれの門では検閲が厳しくある為に街の治安は良く守られている。

18年前、かの時代に激しい内乱と外殻大地の崩落による災害により、一時は滅亡寸前にまで追い込まれながらも見事に復興を遂げたファンダリア王国。
かつてない苦境を乗り越えた事で、この国は18年前よりもさらに発展を遂げていたらしい。

「外から眺めただけでも凄かったけど、中に入ってみると改めて凄いって感じる」

「賢王と呼ばれた先代を越える英雄王の治める国だ、当然だな」

「っ……」

「? どうした?」

「ううん、なんでもない」

視えてしまったものに少し驚いてしまい、思わず固まってしまった私。
心配してくれたのだろう彼の言葉に首を振りつつ答えて、そこから視線を逸らした。

……完全と言える程、立派に復興を遂げたとはいえ。それでもここはかつての戦場であり、被災地だ。
ダリルシェイド程酷くはないにしろ、未だに現の世に取り残された人達がちらほらと居る。
けれど、あそことは違い十分な慰霊もされている上に、街の人々の気が明るい方向に在るおかげか危ない方へ堕ちそうな魂は見当たらなかった。これなら、きっとあと数年もすれば自然に還る。

街の景色に感動したらしい、「早くウッドロウ王に会いに行こうよ!」と興奮しているカイルを他所に、ふと気付けば今度は骨っこが何かを考えるようにして俯いていた。

「どうしたの?今度はキミが考え事?」

「いや、まさかとは思うが、顔見知りでもないただの一般人に過ぎない僕達に、一国の王が簡単に会ってくれるのか、と思ってな」

と、顔を上げてははしゃぐカイルに向かい、問い掛けるようにして呟く彼。
その声にピタリと動きを止めたカイルに、「やっぱり駄目なの?」と問うリアラは二人揃って彼を見つめた。

「ああ。王への謁見とは、本来それなりの手順を踏む必要がある。隣家の友人へと訪ねていくような気軽さで行ったとて、恐らくは文字通りの門前払いをくらうのが関の山だろう」

「一応、そうだろうと思って私から申請の手紙は出してある。けど、あまり期待はしない方がいい」

「何?いつの間に出したんだ?」

「廃坑で宝探しする前。男の子組と合流する直前に」

妙に根回しがいいんだな、と何故か半眼で睨まれた。
自分が解決したかったのかな。というか、もしかしたら彼はカイルの世話を焼きたかったのかも知れない。
なるほど、「余計な事をするな」という意味ね。
でもキミが甥っ子の力になろうとするように、私だって友達の力になりたかった。それを咎められたくはない。

「あまり期待はするなっつーのはどういう意味だよ?」

「前にフィリアさんが謁見の申請を出した時、一ヶ月半も予約待ちだった。先方は仲間のよしみで到着次第最優先にしてくれるって言ってたけど、フィリアさんは丁重に断って、結局到着してから待ちの期間中ずっと奉仕活動してたみたい」

「うへぇ、マジかよ。んじゃ厳しいかも知れねぇな……まあ、駄目なら駄目で、そん位は俺がなんとかしてやんよ」

「? ……何か考えがあるの?」

「まあ見てろって。けどま、お前の打ってくれた手が無駄にならないに越したこたぁねぇんだけどよ」

…………なんだろう。なんだか不安になるような言い回し。ヘンな事考えてなければいいんだけど。

と私が仮面の下で怪訝な表情をしているとは露知らず、ロニは早く行こうと急かすカイルに引っ張られて行ってしまった。
慌てて追いかけていくリアラの背を見送りながら、骨っこが私の隣に並んで一言。

「馬鹿が張り切って余計な真似をしないように見張っていろ。これは勘だが、恐らく奴はロクな事を考えていない」

「どういう、事?」

不思議に首を傾げれば、彼は「その時になればわかる」とだけ残して行ってしまった。
その背中はやはりどこか不機嫌そうで、彼の傍で一生懸命に宥めようとしているシャルさんを見る限りは気のせいでもないらしい。

「あ〜……そういう事ですか。ロニ様ってば中々悪どい。というか、親バカも過ぎると毒にしかならないんですけどね〜」

どうやらフィオにはわかったらしい。何それ、この子にわかって私にわからないとか、地味に悔しい。
親バカ……というか彼の場合は兄バカが過ぎて毒になる、というのはなんとなくわかるけど、それが彼の悪どいという評価に繋がる理由が見えない。
でも多分、その私に見えない部分が骨っこを怒らせたんだろうと思う。
ともかく、言う通りに目を離さないでおこう。
そう決めた私は、十数メートル程先の路地から「置いてくよー!」と叫んでいるカイルに苦笑いを浮かべつつ歩き出したのだった。


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