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夜空を纏う銀月の舞
今は、まだ。5

カイル達を探して船を歩き回ること十数分。
男子部屋・女子部屋それぞれの船室や食堂などを見て回るがみんなの姿が見当たらない。
残りは前部甲板かな、とアタリをつけて階段を上り、扉を開け放つ。
作業に追われる船員さん達に軽く会釈をして通り過ぎたところで、聞き慣れた少年達の話し声が聞こえてきた。

こんなところに居たんだ。

船の舳先、男女四人の姿を認めた私は、ゆっくりとそちらへと向かい歩み寄って行く。
どうやら私と骨っこが話している間にカイルがみんなにフォローでもしてくれていたようで、てっきり険悪な雰囲気にでもなっているんじゃないかという私の予想は外れていた。
今は四人で雑談に興じているようで、私と別れたきり戻って来なかったフィオもみんなに混ざっている。

「そろそろ、スノーフリアの港が見えてくるはずだぜ。ここまで来れば、ハイデルベルグはもう目と鼻の先だな」

「長かった船旅も、これでおしまいね。……なんだか、名残惜しい気がする」

「な〜に、帰る時にまた乗ればいいさ。そうだろ?」

「……そうね。帰る時に、ね……」

「……?リアラさん?」

カイルのさらりとした発言に、少し俯き加減に相槌を打つリアラ。
どうしたんだろうか。……いや。そもそもの目的を思い出せば、彼女が暗くなる理由もわかる。
元々私達は、英雄を探すリアラに同行する形で旅をしている。
そして現在、世界で存命中の英雄で、まだ会っていないのはウッドロウ王だけ。
もし彼がリアラの探す英雄であるなら、恐らくはそこで彼女の旅は終わり、私達と別れる事になると思う。
……だから、カイルの言う「帰る時に」は、リアラはもう傍に居ないのだ。
そして、もしも彼女がそこに居た場合、それは目標の……少なくとも僅かな手掛かりすらも消失してしまっている事を意味する。
いずれにせよ、いい事にならないのは確実だった。

「ね、リアラ」

「あ……ユカリ。今日はもういいの?」

「ん。……ごめん。でもそんな事より、リアラは」

「いいの。だから、言わないで。もう少し、……もう少しだけ、このままがいいの」

「…………そう」

三人から少しだけ後ろに下がり、小声で問う。
するとやはり私の予想は当たっていたようで、彼女は目を伏せてかぶりを振った。
やっぱり、彼女はどうあっても抗えないらしい。
個人の感情は、淡い想いは、存在理由とも言える使命の前ではあまりにも無力。
それを痛感しているからこそ、残り僅かだろう時間を、覚悟を固めながら今まで通りを噛み締めていたいんだと思う。
その気持ちは、痛い程にわかる。……だって、私も彼女と同じだから。
限られた僅かな時間を、余さずに噛み締めていたい想いは。

二人して少し沈んだ気持ちでいると、背後から先程置いて来た彼が近付いて来るのがわかった。
……彼の気配に敏感になっている自分に、思わず苦笑いが浮かぶ。どれだけ好きなんだ、と。

「すぐにスノーフリアに着く。出発の準備をしておけ。グズグズしてると、置いて行くぞ」

「ジューダス……うん!」

開口一番そう告げる彼に気付いたカイルは、そのセリフに喜び笑顔になる。
信頼に応えてくれた事が、心から嬉しいんだろう。

そんなカイルの隣では、どうにも気まずいといった表情のロニ。

……ああ、彼と喧嘩してたのはやっぱり、ロニだったんだね。

それでもロニはこのまま険悪な状態ではよくないと思ったのか、もしくは少し前の自分を反省したのか。少しどもりながらも謝罪の言葉を口にした。

「ジューダス、あ、あのよ。悪かったな、さっきは、その……」

「いや、僕も大人気なかった」

「ジューダス……」

……ちょっとびっくり。
あの彼が、謝罪を受け入れたばかりか素直に謝った。

「実際の年齢はともかくとして、精神年齢は僕の方が高い。子供であるお前と同レベルで話すなんて、大人である僕がすべき事ではなかったな。反省している」

――――なんて思っていた時期が私にもありました。
そうだよね。彼はそういう人だよね。
本当は優しくていい人な癖に、どうにも素直になりきれないというか、ひねくれてるというか、照れ隠ししなければ恥ずか死する体質な照れ屋さんというか。
ちょっと残念でもそこが可愛くて好きなとこでもあるとかあれドサクサに紛れて何言ってるの私。

そしてその可愛さが通じないらしいロニは、額面通りに言葉を受け取り顔を真っ赤にして憤慨していた。

「な、な、な……なんだよそりゃあ!それじゃ、俺がガキって事か!?」

「そう言ったつもりだがわからなかったか?僕の言い方もまだまだのようだ」

「まったくお二人とも、お子さまなんですから」

「黙れ三歳児。お前にだけは言われたくない」

茶々を入れるフィオに骨っこがすかさず突っ込めば、明るい笑い声が上がる。
「好き放題言いやがって……」と憤るロニを他所に、溢れる笑顔。ロニにしても本気で怒ってるわけじゃないのは、目を見ればすぐにわかった。
少し揉める時があっても、それを長くは引き摺らない仲間達。

そんなみんなの事が、私は大好き。

2015/08/16

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