「いや〜、やっぱり女の子はいいわ〜。なぁ、お母はん」 「そうやな。レナはんやったか? 桜の昔の着物はまだまだぎょうさんあるやさかい、好きなの何でも着てくれてかまわへんよ」 「あ……ありがとうございます」 天宮の間で、戒斗達が見たものはありえない光景だった。ここいるはずのない母とその部下であるレナ=リーベが祖母と楽しそうに話している姿だった。 当主である祖父はそんな三人を優しい目で見つめながら、酒を楽しんでいる。 「あら、戒斗も来たんやなぁ。どうや、レナちゃん、べっぴんさんやろ?」 実家に戻って来たせいか、方言に戻っている桜が隣に座るレナの背を押す。戒斗は母に言われたようにレナを見た。 薄紫色の着物を着て、鮮やかな金髪をアップにし、丸い飾り石をつけたかんざしをしている。文化の違いに戸惑っているのかいつになくしおらしい。 「そうだな、そうしていれば綺麗だな」 「なっ! どういう意味よ鳳戒斗!」 「そうそう、レナさんに失礼だよ。こんなに綺麗なんだから」 レナは怒りを露わにするが思ってもいない人物―――リオン―――に庇われて驚く。 「リオン君……だったわよね。ありがとう。嬉しいわ。……たしかディライアになったって聞いたけど」 「うん。シオ姉と一緒に新人だけどね」 「そう。それで……神のほうはその後」 「レナちゃん、仕事の話は無しやで。今は食事を楽しむ時間やからな、ほら、戒斗もお連れはんも、座りや」 桜に勧められ戒斗達も席につく。そして夕食は始まった。 途中で祖父がヴィオに酒を勧めたり、悪酔いした淳が戒斗に色仕掛けをしたりと大変な事がおこったりしたがなんとか夕食は終わった。 翌日、温泉へ行くという桜とレナにヴィオとリオンが加わった。初めて聞いた温泉に、興味があるようだ。 「じゃあ、私達は行ってくるさかい。……ほんまに戒斗は来ないん?」 「あぁ、今日は刀を見に行く。時間があったら行くさ……『月下温泉』でいいんだよな」 「そうや、ほなまた後でな。みんな行くで」 「じゃーねー、戒斗!」 「新しい刀見せてよ」 「……」 そして戒斗は四人と分かれた。レナだけは、昨夜のことを気にしているのか無言のままだった、が戒斗は気にせず町の方へと歩き出した。 戒斗は京都の町中にある暖簾の掛かった小さな部屋に入った。 「いっらしゃい。うちは何でもありんす……あぁ、なんや。戒斗はんか。最後にここに来た時も大きくなっとたが、暫く見んうちにまた大きくなりおって……」 戒斗がやって来たのは小さな鍛冶場の兼ねた刀売りの店。陳列棚や壁には様々な種類の日本刀が並んでいる。それは全て商品だ。 そして店のカウンターから戒斗を迎えたのはいたって平凡な中年である亭主だった。 「戒斗はん、今日はなしてこられた。また、新しい刀か?」 「あぁ、そうだ。今すぐできるか?」 「戒斗はんの刀は特別やからなぁ。まぁ、型はあるから今から打てば明日の朝までには出来るやろ」 亭主は腕を組み今店にある材料とそれに掛かる時間を考えると戒斗にそう告げた。 「随分、早いな」 「はは、うちはそれが自慢やからなぁ」 「そうか、出来たら連絡してくれ」 亭主にそれだけ伝えると戒斗は店を出る。店をでた戒斗は一度立ち止まると一瞬、空を見上げ早々と立ち去った。 ACT.26 落ち着けない、帰郷 END |