SIDE 日本 戒斗はリオンとヴィオを連れて母親の実家がある京都へとやって来ていた。 「うわぁー。すっごーい。これが戒斗の家かぁ……」 リオンとヴィオは巨大な門を前にして、ぽかんと口を大きく開けて驚きを表現している。 「いつまでも突っ立てないで中に入るぞ」 戒斗が門前に立つと自動で門が開いた。中には美しい日本庭園が広がっている。 「あ、魚だ。リオン、これ旨いか?」 「ヴィオが味見してみれば?」 二人は池の中を優雅に泳ぐ鯉に興味を持ったのか、ふちにしゃがみ込み中を覗きこんだ。 「……落ちるなよ」 戒斗に注意された二人は大丈夫と笑いながら鯉を見ていた。よっぽど気に入ったらしい。 戒斗が先へ進めば、玄関の方から初老の女性が歩いてきた。桜の母、戒斗の祖母にあたる女性だ。 「祖母さん、久しぶりだな。突然帰ってきて悪い」 「気にしたらいけまへん。ここは戒斗はんの家でもあるんどすよ。さぁ、お友達もどうぞ中に上がってくださいな」 祖母に言われたように二人を引っ張り家の中へ上がった。戒斗の自室の隣の空き部屋にリオンとヴィオは一緒に入る事になった。その理由は戒斗と一緒じゃないと迷子になるということだ。 「この家には式紙がいる。迷っても行きたい場所を言えばそいつらが連れていってくれる」 だから出ていけと戒斗が言うが、二人は戒斗の部屋に居座っている。 「だってさ、日本って初めて来たからわかんない物ばっかで一人だと不安なんだよ」 「ほう、お前でも不安な時があるんだな」 「戒斗さ〜ん、どういう意味〜?」 にっこりと笑いながら、リオンは自分の武器を持ち出した。 「何だ、やるのか?」 戒斗は立ち上がり刀に手をかけた。二人の只ならぬ空気から逃げ出すようにヴィオはテーブルをすみによせて座布団を容易してちゃっかり客席を作ってしまう。 (まだ、戒斗の力しか見た事ないんだよね。ちょうどいいからリオンの実力を見せてもらおうかな) 二人は笑ってはいるが、その場の空気は冷え切っている。 タタタタッタタッ! スパーン! 「戒斗兄様〜!」 「ッ!」 そんな場の空気を気にする事もなく少女は廊下を走ってきて、障子を開けた。そして戒斗の名前を呼びながら戒斗へと飛び付いた。 「淳……はなれろ」 「は〜い」 淳と呼ばれた少女はおとなしく戒斗から離れた。 「誰? その人」 「安部淳【あべじゅん】……本家……ここの子供で俺のいとこだ」 「淳で〜す。戒斗兄様がいつもお世話になっています」 「いえいえ、ご丁寧にどうも。僕はリオン。こっちがヴィオです」 「よろしくな、淳!」 先程までの空気はどこへ行ったのか、和やかなムードが流れ始める。淳を加えて、三人は日本についていろいろと話している。 「……言い忘れていたが……」 ふと、思い出したように戒斗が呟いた。 「どうかしたの?」 「なんだ?」 「……淳は男だからな」 その時、部屋の時間の流れが止まった。 「……え?」 「……嘘だよな、戒斗!」 どう見たって少女しか見えない淳が、実は男だと言う。驚かないわけがない。 「戒斗の話は本当、僕は男だよ」 先程までの可愛らしい声とは違う、高めだが確実に男の声で淳が言う。 「騙して悪かったね。僕は歌舞伎……日本のミュージカルみたいなものかな。それの女形をしているから、つい癖で普段も女言葉で話してしまうんだ」 「オヤマ? 山がどうして女に繋がるんだ?」 ヴィオはまた変な勘違いをしている。どうやらこの悪魔は何か抜けている所が多いらしい。 「女形って言うのは、僕みたいな男が女性の人物を演じる事を言うんだよ」 「じゃあ、淳は男だけど仕事で女になるのか? う〜ん、カブキってのは難しいんだな」 「好きでやってるから……良いんだけどね。でも戒斗が来たのはびっくりだよ。桜おばさんはそんなこと一言も言ってなかったから」 淳の言った言葉に戒斗は眉を寄せる。淳の言葉はまるで桜と直接会って話をいたかのような言い方だ。 だが、連合の科学者でもトップの部類に入る桜がそんな簡単に本部から出れるはずがない。だからすぐにその考えを捨てた。 「戒斗様、食事の準備ができました。天宮の間へどうぞ」 式紙の声に返事を返すと戒斗達は天宮の間へと向かう。 |