SIED 中国 戒斗達と分かれて中国へ向かう途中エリックが一軒の店の前で立ち止まった。 「シオンさん、済みませんが……ちょっと、花屋へ寄っても良いですか?」 「花屋に? 別に構わないが……」 助かります、とエリックはシオンに礼を言うと色とりどりの花が置かれている花屋へと入っていった。 「いらっしゃいませ〜! 何をお求めですか? もしかしてそちらのお嬢さんへの贈り物ですか?」 「なっ!」 その定員の言葉にシオンは顔を真っ赤にし慌て始める、エリックも定員の言葉に多少なりとも驚いたが、定員に違うと答える。 「えっ、違うのですか? では、一体何をお求めですか?」 「墓参り用の花束をお願いします」 「畏まりました。では、菊をベースにお作りします。それと、多少時間が掛かりますので他の店の方もご覧になってきたら如何でしょうか?」 「そうさせていただきます」 定員に礼を言うとエリックとシオンは店を出た。それを見送った後定員は白い花束を作り始める。 「さてと、シオンさん。これからどうします?」 「別に何でもいい。それとお前、敬語やめろ。眼鏡を掛けている時は気にしなかったが……今のお前じゃ会わない」 シオンにビシッ!と指を差して言われエリックは少したじろいだが、何を言われたのか気付き苦笑いを浮べ口調を元に戻した。 「そんなに今の私には敬語は似合わないか?」 「それがお前の本来の口調か?」 口調一つでこんなにも雰囲気が変わるものかとシオンは思った。今まで自分が知っていたエリックは何処かのほほんとした雰囲気を纏っていたが、今目の前にいる男は何処か冷たい雰囲気を纏っていた。 「口調一つでよくそんなに雰囲気が変わるな。恐れ入るよ」 「誉め言葉として貰っておく。だが……」 そう言うや否やエリックはシオンの利き腕を取り自分の方へと引き寄せシオンの耳に囁く。 「君に言われたくないな。君だって服一つで感じが変わる。それに気づいているか? 君に注がれている男の視線。やはり前に言った様に結構もてるな君は」 一瞬何を言われたか分からなかったシオンだが言われた事を理解するとエリックの腕を振り払う。 「う、煩い! しかし、お前、自分の事は無頓着だな。あの定員といい周りの女はお前に見惚れているぞ」 「……シオン、取り敢えず市場へ行くか。多分そこが丁度いい暇つぶしになるだろうからな」 「そうだな」 取り敢えず二人は市場の方へ向かっていった。 その後、男はシオンの事、女はエリックの事で盛り上がっていた事を本人達は知らない。 「しかし、凄い熱気だな」 「そうだな」 エリックは始めて見る中国の市場の熱気に驚きを隠せなかった。市場はそれこそ何でも打っていた。野菜を始め金属類や宝石を売る店もあった。 そんな中を離れないようにと手を繋いで歩いた。 「あっ、エリック、ちょっと待ってくれ」 「どうかしたのか」 シオンの言葉に足を止めるとシオンはエリックの側から小さな箱を売っている店へと走って行った。 「いらっしゃい、お嬢ちゃん。こんな物に興味があるのかね」 老人は嬉しそうに近くある箱を開けるとゆっくりと旋律を奏でる。 「オルゴール。しかも貴方の手作りですか?」 「そうじゃよ。本当に久しぶりのお客さんじゃ。今はもうこんな老いぼれの作った物なんぞ欲しがらんよ」 「そうか? 俺はこういう手作りの物は好きだ。一つ一つに気持ちが込められているからな」 シオンは老人が作ったオルゴールに耳を傾けながら答える。 「ご老人そのオルゴールを一つ頂こうか」 「買ってくださるのかね。一つ500Gじゃ」 エリックはオルゴールを聞き入っているシオンに聞こえぬように老人に話すと老人も悟ったのか小声で話す。 「そんな額でいいのか?」 エリックは告げられた代金に驚きを隠せなかった。 「いいんじゃよ。久しぶりの客なのだからサービスしなくてわの」 老人はエリックから代金を受け取るとオルゴールを丁寧にラッピングしエリックに差出す。 「そうそうお若いのおぬしラフィン殿ご子息か?」 その老人の言葉に再度エリックは驚かされた。老人の口から出たラフィンと言う名は父の名前だったから。 「父を知っているのですか?」 老人はエリックの問いにゆっくりと頷いた。 「やはりそうでしたか。それにしても本当にラフィン殿にそっくりですわ。雰囲気も髪も……昔、ラフィン殿がまだ生きていた頃はよく薬を貰い。ラフィン殿とその奥方はその度にワシの作ったオルゴールを見ていってくださった。本当に……良い人を亡くしてしまった。今日は美しいお嬢さんを連れてご両親の墓参りですかね」 「なっ、お、俺は別にコイツと付き合っているわけじゃ……」 「えぇ、墓参りに今日は中国へやって来ました」 でしたら、と老人は一つのオルゴールをエリックに差出す。 「これは?」 「お二人の為に作ったのですが渡す前にお亡くなりになられてしまったので……墓の御前にで も置いてください……これしかワシにはできませぬから」 そんな老人に一度頭を下げるとシオンと共に花屋へと向かう。その途中、麻薬の売人か怪しい男が金を持っていそうと思ったのかエリックに声を掛けてきた。 「旦那、いい薬がありまっせ。なんでもそんな病気でも一発で治るって話しっす」 「興味無いな」 「まったくだ」 二人が薬の売人を無視して通りすぎようとした所を売人は慌ててエリックの袖を掴んだ。 「これ本当っす。何でもアルタイルの薬剤師が死ぬ間際まで無理やり作らされていたらしんすっから」 「その薬を見せろ!」 売人から薬を奪い指で一掬いし舐めると、驚きを隠せなかった。本当に父と同じ調合の仕方だった。 「分かった。その薬を買おう。いくらだ」 「マジで買ってくれるんすか旦那。この薬安くないですぜ……そうさなぁ、10万G。びた一文もまけないすっから」 「エリック、マジで買うのか」 シオンは恐る恐る尋ねるが、エリックは懐から紙を取り出すと値段を書き込み売人に渡す。 「以外に安いな。手持ちが無いので小切手で済まないが大丈夫か?」 「へへ、マジで買う奴がいるとは思わなかったぜ」 売人は嬉々と小切手を受け取りそのまま姿を消した。 「お前、大丈夫なのかあんな大金……」 「大丈夫だ。私は元軍医だからな……あれくらいの金は払える。それに父の薬だからな見習うところは多いからな。父が亡き今はこの薬を参考にするさ……と、早く行かないと日が暮れるな」 エリックはシオンの手を取り、花屋へ急ぎ、店員から花束を貰いエリックの両親が最後に働いていたという工場へ向かう。その途中エリックは思い出したように足を止めた。 「エリック、どうした?」 「シオン。手を出せ」 「はっ、何だ?」 シオンは怪訝の眼差しを浮べながらエリックに差出すとエリックは小さな箱をシオンの手に乗せる。綺麗にラッピンされた箱を明けてみるとそこには先ほど見ていたオルゴールが収められていた。 「おい、エリック!」 「墓参りに付き合ってくれた礼だ。受け取ってくれ」 「……ありがとう。大事にする」 その言葉にエリックは満足そうに笑みを浮かべると止めていた足を再び動かし目的地へと向かう。 |