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二人の、研究者

SIDE セティルバレイス



太陽が昇り、月が沈み、また太陽が昇り、日が変わる。流れる時の中で沢山の生物が生まれ、育ち死んでゆく。
変わる事の無いそのサイクルを見守る為に生まれた僕は、僕という姿を持っていない。どの時代にも生きやすい姿を写し取り、僕は僕として生き続けてきた。

それはこれからも変わらない。

何か一つの物に執着する事は無いし、誰が死のうとも関係無い。だって僕はこの世界に常に存在しながらこの世界の一部になることは決して出来ないから……見守る事しか出来ないから。



セティルバレイスは鏡の中から今の主人を見つめていた。本来の主人となるべく相手に気づかれないように出会うための駒として選んだ人間、ハングレイブ。

自分の目的の為の駒でしてか無いから、ハングには未来を教えた。あまりにも残酷な死という未来を……。

彼がそれを真実として受け入れたのか、そうではないのかはセティルバレイスには分からない。ただ、真剣な表情で、異世界について調べるハングを見ているとどうにもならないもどかしさを感じた。

短い命を研究に費やす姿を見ると、もっとそれ以外にやる事はないのだろうかと思う。それしかやる事を知らないかのように、ただひたすらに研究を進めるハング。

そして、その隣にいつもいる本来の主人となるべき人間。
闇の神に呪われた一族である青年。青年はまだセティルバレイスの姿を見る事が出来ない。

それはまだ時期ではないということ。青年がセティルバレイスを見る事が出来た時……すなわち今の主人の命の灯火が消えるということ。

(僕には関係無い……でも、どうしてこんなに切ないんだろう)

主人が変わるたびに思うこと。どうしても慣れる事の無いこの感覚。

世界を動かすために、セティルバレイスは常に主人を選び続けなければならない。そして、その者の死も……出会う時に 知ってしまう。死んでしまう事を知りながらも、主人を選ばなくてはならない。

この時ばかりはセティルバレイスは自分の力を憎む。そして、その使命を持たない兄弟とも言える神達を羨ましく思うのだ。

(けれど、これが時空神として生まれてしまった僕のさだめ……)

セティルバレイスは自分が自分であるために、新たな主人を選ぶ為に……ハングの死を望んだ。





SIDE ハング



ハングレイブの研究所に電話のベル音が響く。

顕微鏡を覗きこんでいた時也が水晶の方へと近づいていき手を翳す。水晶に映りこむのはハングの知人である研究者。

「はい、こちらディオタール研究所です」

『セデアロ研究所のメトロです。ハングレイブ所長をお願いできますか?』

「はい、わかりました。少々お待ち下さい」

時也は保留にしてからハングのいる研究室へと向かった。数人の研究者と、一つのビーカを覗きこんでいるハングに近づき、時也は耳打ちする。

「セデアロ研究所のメトロさんから電話です」

「分かった。……お前等取り敢えずこれについては、また後でやる。それぞれの仕事に戻ってくれ」

ハングが職員にそう伝えると水晶に向かう。それを見送ると時也は自分の研究へと戻った。

「もしもーし。俺だ、ハングだ」

「久しぶりです。お元気そうで……」

「お前もな。この間の同窓会に来なかったから心配してたんだぞ」

ハングは久しぶりに聞いた大学の同級生の声に嬉しそうに答えた。

「あの時はちょっと体調を崩してしまっていて……すいません」

「気にすんな、かわりに今度飲みに行こうぜ」

「そうですね。それで本題の方なのですが……以前、お知らせした遺跡のことでちょっと……」

一ヶ月ほど前にメトロから送られてきていた遺跡の資料のことをハングは思い出した。ヨーロッパ中部に新しく見つかった、五百年ほど前の遺跡だ。マナでなく石油を資源として使っていた時の工業都市が地震によりその存在を表にあらわした。

「あぁ、あの遺跡な。何か面白いもんでもあったのか?」

「おもしろい……といいますか、どうやらアルタイルの方々が以前、住んでいたらしく……」

「どういうことだ? この間の資料にはそんなこと一言もなかったじゃねぇか」

アルタイルと聞いて思わず声を荒げたハング。メトロは申し訳なさそうに、しかしはっきりした声で言い返した。

「だって、あの時は隠し扉に気がつかなかったんですから、仕方ないでしょう。三日前に魔法学校の天使さんにお願いしてやっと結界を解いて貰ったんです!」

「お、俺が悪かった。だから落ち付け、な?」

普段のメトロらしかぬ態度に、ハングは慌てて謝った。渋々頷いたメトロを見てハングはほっとして話の続きを促した。

「それで、俺はその遺跡で調査しても良いのか?」

「それがですね……面だってロシアの研究所に調査されると困るんです。ですが、僕の知る中でアルタイルに詳しいのは貴方だけですから……」

「俺一人で個人的にするのは構わない……ってことか」

「ええ。分かって頂けて嬉しいです。明後日には遺跡へ向かうつもりですが、どうでしょう」

「おいおい、随分と急だな。まぁ、なんとかなるだろ。明日の夜にはお前の家に着くだろうから、泊まるとこ頼むな」

「助かります。では、また明日の夜に」

「あぁ、またな」

ハングはメトロの電話を終わらせると、研究員達にしばらくここを開ける事を伝えた。そして、ヨーロッパに向かう準備をするべく、自宅となる二階部分へと上がっていった。

スーツケースに着替えなどを入れ、小さな鞄には資料や研究道具、セティルバレイスの宿る鏡を迷いながらもいれた。身につけた覚えがなくともいつのまにか服のポケットや鞄の中に紛れ込んでいる困った神様だ。

連れて行かなくともついて来るだろうが、やはり突然現れるのには慣れないため、ハングは渋々セティルバレイスを鞄の中に仕舞い込んだ。

翌朝、ハングは荷物を纏め時也に後頼むと伝えると、ワープを使うためにいつもより多くの現金を持って研究所を出た。



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