SIDE 戒斗 戒斗は悩んでいた。 ヴィオを日本へ連れて行くか、そうでないかをだ。ヴィオを悪魔だと知っているのはノエルと戒斗だけ。 カインにヴィオを頼むことも考えたが、ヴィオとノエルを一緒にしておくとことはかなりまずい。そうなると自然と連れて行く方へと天秤は傾くが、戒斗が日本へ行くのはただの旅行ではない。 しかも、戒斗の実家―――正確には母方の祖父母の家は陰陽と、日本とつながるアルタイルの精霊の力をかりた特殊な術を使う。悪魔であるヴィオが精霊達の影響をどのように受けるか分からないのだ。 (本人に聞くしかないか) ヴィオを探しに行くと決めて、自室のベッドから起きあがるとドアをノックする音がした。 「か、戒斗っ! 遠くに行っちゃうってのは本当なのかっ!?」 戒斗が返事をする前にヴィオは音を立ててドアを開けた。 「あぁ、エリックから聞いたのか」 「そうだよっ! シオンとリオンもびっくりしてた。どうしてオイラ達に黙って出て行くんだっ!」 興奮気味に詰め寄ってくるヴィオを見ながら戒斗は溜息をついた。 (こいつ……何か勘違いして……) 戒斗は取り敢えずドアを閉めベッドにヴィオを座らせる。 「先に言っておくが、俺は買い物に行くだけだ」 「……え? だって日本に帰ったら、もう戻ってこないってリオンが言ったぞ」 「からかわれたんだな」 「うっそーん!? オイラ遊ばれてたってこと?」 ムンクの叫びのようになポーズをしているヴィオを見ながら戒斗は自分の目的を思い出した。 「お前、どうするんだ? 俺とエリックは行くが、双子は家に残るだろうしな。どっちでもいいぞ」 「う〜ん……行く! 日本って行ったこと無いから楽しそう」 「そうか……なら明日、ワープを使っていくから準備しとけ。服は向こうで買う。洋服は目立つからな」 「りょーかいっ!」 ビシッ!とヴィオは戒斗へ敬礼をする。そんなヴィオの頭を戒斗は撫でる。いきなりのことにヴィオは驚くがすぐに「えへへ」と笑い出す。 自分よりも遥かに長い年月を生きているヴィオだが、精神的にまだ子供だと、戒斗は思った。 そして……戒斗達は日中へとやって来ていた。 ワープゾーンのある建物から、戒斗、エリック、ヴィオの三人は出てきた。 三人が使ったワープ出口は日本と中国、二つの文化が入り混じる二国の中間点にあたる華京【かきょう】という街だ。この華京を境に西が中国文化、東が日本文化が多く広まっているのだ。 「すごっ! これ、みんな木で出来てるんだよな」 「あぁ、こっちは木造が基本だからな」 ヨーロッパのレンガ造りの建物しか見た事のないヴィオは始めて見る建物に見入っていた。 「まずは着替えを買うか。この格好じゃ目立つしな」 とりあえず三人は服を買うために、呉服屋へと入った。中には色とりどりの和服やチャイナ服がずらりと並んでいる。 「中国に行くならチャイナ服だな……このあたりから好きなものを選べ」 「あ……はい。それにしても、目が痛いですね」 金や銀がメインで刺繍されている為、その派手な柄にエリックは苦笑いする。 「チャイナ服は派手なのばかりだからな……」 「なるべく地味なのを探しますよ」 「戒斗! オイラ達のはどれ?」 ヴィオにせがまれて、戒斗はエリックから離れ、和服のコーナーへとやって来ていた。シンプルな物から派手な柄の物まで様々な物が揃っている。 「ヴィオ、とりあえず好きな物を選んで来い。俺も先に自分の物を選んでくる」 「うん! わかった」 ヴィオは気になっていたものでもあるのかすぐに走って行った。「人にぶつかるな」と声をかけてから戒斗も自分の分を仕立てに行く。 (袴は面倒だしな……上着だけ買うか) 実家に行けば着物はある。そこに行くまでの服なのでなるべく安くすませたい。 藍色に白模様のシンプルな着物を戒斗は試着した。 ハイネックのインナーの上から着物を着る。長さも丁度よかったので、そのまま来ていくと店員に言ってから料金を払う。そして持ってきた刀を帯にさした。 やはりベルトに差すよりも、こっちのほうがしっくりくると戒斗は思った。子供向けの和服コーナーへ行くとヴィオが女性店員に捕まって着せ替え人形のごとく様々な着物を着せられていた。その店員の勢いにヴィオは涙目になっている。 かかわりたくない、戒斗が見なかったことにしようとした瞬間、ヴィオと目があった。 「か、戒斗〜。オイラ、一人でどうしたら良いかわかんなくて」 店員の横を通り抜け、ヴィオは戒斗にしがみつく。戒斗は小さく溜息をついてヴィオの頭に手を乗せ、店員へと目を向ける。 「あら、この子のお父さん……にしては若いからお兄さんですか?」 「あぁ、迷惑を掛けたな、済まなかった」 「いえいいえ、私の方こそついつい我を忘れてしまい……今度はちゃんと見立てますから、好みの色やデザインを教えていただけますか」 店員は苦笑いをしながら接客をし始める。戒斗を見たとたんに走り出したヴィオを見て、流石にやりすぎたと思ったらしい。 「動きやすい奴で……ヴィオ、好きな色はあるか?」 「えーと……緑とか、黄色とかが好き」 「じゃあ、三着ぐらい見立ててもらえるか?」 「はい、お任せ下さい」 そう言って、営業ではなく、本当に嬉しそうに笑う店員にヴィオは着物を選んでもらった。そのうちの一着、緑色に蔓が描かれた着物に着替え、下には膝上丈のハーフパンツをはいた。 ヴィオが着替えている間に戒斗は会計をすました。エリックを探しに行こうとすると、女物のコーナーから、聞き覚えのある声が聞こえた。 「だから……俺は男物で良いって言ってんだろっ!」 「え〜、このチャイナ服カワイイのに」 あいつ等がいるわけないと、戒斗は今の声を聞かなかった事にした。 |