SIDE 双子 何もない荒野を走る二つの影。 「いやぁ〜、シオ姉大人気だね〜」 「笑い事じゃねーだろーが! てゆーか狙われてんのはお前も同じだろ!」 その後ろには無数の影。 「待てやー!」 シオンとリオンは少しだけ走るスピードを上げる。 「ここって人があんまり来ない筈なんだけどな」 「いらんことぼやくな!」 「いや、だってさー、だいたい人が来ないって理由だけでここにアジト建てたのってシオ姉だよ〜」 「がたがた言ってないで走れ!」 「みんな呼ぶー?」 「いい、このままアジト――壊すから」 シオンはいつもの調子より幾分静かな感じだで言う。 「……そっか」 リオンはそう一言でシオンに返した。 その言葉が何を意味するか、リオンは知っているからだ。 「それにしても、大人気だね」 「お前も同じだ」 シオンはうんざりしたように返したっきり黙り込んでしまった。 やがて、進むにつれてゴツゴツとした巨大な岩が増えてきた頃、岩と岩の間に大きな、しかし、すぐには見つからない程の大きさの家が見えてきた。 「シオ姉〜このまま分子レベルに分解するけどいいかな?」 「あぁ、好きにしてくれ。別に問題はないから」 「りょ〜かぁ〜い」 リオンがにこーっと満面の笑みを浮かべる。その笑みに物凄い不安を感じているシオン。 そんなシオンをよそに、リオンは鼻歌混じりに杖を持ち、呪文を唱え始める。 「虚無の王、幻影の王よ、その力を以って彼のモノを小さき力を無へ帰せ!」 ゆっくりと、リオンの杖を持っていない方の手に黒い球体が現れ、それが大きくなっていく。そして黒い球体がピンポン玉と同じ程の大きさになった時、「さよならだね」とリオンは呟き球体を家へ向けて飛ばした。 球体はふわり、と浮かびながら家に近づいていく。黒い球体が家にふれた瞬間、ずるりという音が聞こえてきそうな蠢きが漂い家があっという間に黒く染まった。 「彼のモノ、虚無へと帰らん」 リオンの言葉に応じるかの様に黒くなった家が小さく身震いした。そして、風に吹かれたみたいにサラサラと黒い粉末状の物体になって、家が崩れていった。 「これでここには何も無くなった訳だね。ここにニルヴァーナのアジトがあった事も、ニルヴァーナが盗んだ宝物、そして仲間との思いでも……」 リオンは悲しそうに呟いた。リオンの唱えた呪文は人間や生物以外の全ての物を分子レベルに分解する禁術だ。 この魔法の他にもリオンは自分達が生き抜くために古代魔術士の生み出した禁術を覚えている。 「ぐっ――ごふっ!?」 突然、リオンは血をはいて疼くまった。 「大丈夫か?」 シオンが近付き聞く。 「ん〜、ちょっとキツイかも……それなりに大きいモノだったから」 リオンは口の端から流れる血を袖で拭うと、「もうひとがんばりだから」と無理に笑って見せた。 (今回は無理のしすぎだな) そうシオンは言いかけたが、黙ってリオンの側にそばに立って頭を撫でた。 「え!? な、何?」 なおもシオンはリオンの頭をポフポフと撫でる。 「無理だけはするな」 シオンは呟くように、けれどはっきりとそう言った。リオンは目を細めると頷いた。 「うん、ごめん、シオ姉」 そして、双子は歩き出す。もう戻らないと決めたから。 「ごめんくださいっと」 破壊音と共に、双子の目の前にはドアとしての機能を失った木の板が倒れていた。 「いいのかな入口こんなにして」 「いつものお前を見習った」 「えー、僕こんな小規模なコトしないよ?」 「さらにタチが悪い」 「お前ら何をしてる」 この家の持ち主、戒斗に声をかけられた双子は笑みを浮かべ、「居候させてもらいにきました」 と、言った。 「……取り敢えず中に入れ。話は後だ」 溜め息をつかれたが、双子は気付かないふりをしてそのまま家の中へお邪魔するのだった。 |